CLASマルチストリーム伝送の施設IDとQZS L6 Toolの更新

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はじめに

準天頂衛星みちびきは、測位信号に加えて、測位精度を高める補強信号も送信しています。L6帯を利用する測位補強サービスには、日本国内向けのCLAS(Centimeter Level Augmentation Service)と、世界中で利用できるMADOCA-PPP(Multi-GNSS ADvanced Orbit and Clock Augmentation - Precise Point Positioning)があります。

私は、これらの測位補強情報の内容を表示するツールQZS L6 Tool(Quasi-Zenith Satellite L6-band Tool)を公開しています。

CLASでは、2025年9月1日から、補強情報を送信する衛星を2つのグループに分け、グループごとに異なる情報を送信しています。このマルチストリーム伝送における施設ID(Facility ID)の解釈を見直し、QZS L6 Toolの表示を修正しました。

CLASのマルチストリーム伝送

信号仕様書IS-QZSS-L6の第5版から第7版への変更点はCLASマルチストリーム伝送のパターンIDにまとめました。

その後、マルチストリーム伝送の開始前は、予約ビットがともに0だったことに気づきました。この値を第7版の定義に従って解釈すると、パターン1に相当します。前の記事では、この予約ビットの値を誤って解釈していたため、施設IDと施設名との対応を見直しました。

以下に、第5版と第7版の定義、および修正後のQZS L6 Toolの表示をまとめます。対象は、message type IDのビット1〜4です。最下位のビット0はサブフレームの開始を示すため、この表には含めません。

IS-QZSS-L6-005 (第5版) CLAS transmission pattern described in IS-QZSS-L6-005

IS-QZSS-L6-007 (第7版) CLAS transmission pattern described in IS-QZSS-L6-007

message type IDのビット1〜4と施設ID・パターンIDの対応

表はビット1からビット4の順に並べています。第7版では、ビット4〜3が施設と送信パターンの組み合わせを、ビット2〜1が送信パターンを表します。QZS L6 Toolの施設名表示は、第5版と第7版の定義を比較して推定した対応に基づきます。

ビット1ビット2ビット3ビット4IS-QZSS-L6-005IS-QZSS-L6-007QZS L6 Tool
0000Hitachi-Ota:0Facility 1 Pattern 1Hitachi-Ota:0 P1
0001Kobe:0Facility 2 Pattern 1Kobe:0 P1
0010Hitachi-Ota:1Facility 3 Pattern 1Hitachi-Ota:1 P1
0011Kobe:1Facility 4 Pattern 1Kobe:1 P1
0100未定義予約予約
0101未定義予約予約
0110未定義予約予約
0111未定義予約予約
1000未定義Facility 3 Pattern 2Hitachi-Ota:1 P2
1001未定義Facility 4 Pattern 2Kobe:1 P2
1010未定義Facility 1 Pattern 2Hitachi-Ota:0 P2
1011未定義Facility 2 Pattern 2Kobe:0 P2
1100未定義予約予約
1101未定義予約予約
1110未定義予約予約
1111未定義予約予約

第5版の欄では、予約ビットが00以外の組み合わせを「未定義」としています。また、「予約」はパターンIDが予約値であることを示します。

例えば、message type IDのビット1〜4が0000の場合、QZS L6 ToolではHitachi-Ota:0 P1と表示します。ただし、第7版には管制局名が記載されていないため、Facility番号と実際の管制局・データ生成系との対応が、この比較だけで確定するわけではありません。

一方、IS-QZSS-L6-007に記載された、各衛星の通常時の送信パターンは次のとおりです。これは仕様書上の割り当てであり、各衛星の現在の運用状況を示すものではありません。

IS-QZSS-L6-007 CLAS Transmission Pattern ID

  • パターン1: QZS-4 (PRN195), QZS-5 (PRN197), QZS-3 (PRN199)
  • パターン2: QZS-2 (PRN194), QZS-1R (PRN196)

受信中に信号が途切れ、別の衛星からの補強情報に切り替える場合は、パターンIDに注意が必要です。異なるパターンのデータを、同一ストリームの続きとしてそのままつなぐことはできません。

仕様書上、パターン1には静止軌道衛星のQZS-3が含まれます。複数のCLAS信号を同時に受信できない受信機では、パターン1のみを利用し、PRN194とPRN196を受信対象から除外する方法も考えられます。ただし、仕様書の注記では、他衛星の長期停止などに応じてQZS-3がパターン2を送信する場合もあります。そのため、衛星のPRNだけでなく、受信データのパターンIDも確認する必要があります。

QZS L6 Toolの利用

macOSやLinuxでPythonとpipが利用できる環境なら、次のコマンドでQZS L6 Toolをインストールできます。必要なPythonのバージョンなどは、QZS L6 ToolのREADMEをご確認ください。

python3 -m pip install qzsl6tool

今回の変更はバージョン0.1.8以降に反映しています。qzsl6read.py -hでバージョンを確認できます。pipで旧バージョンをインストールしている場合は、次のようにして最新版にアップグレードできます。

python3 -m pip install --upgrade qzsl6tool

みちびきの公式CLASアーカイブからデータファイルをダウンロードすると、受信機がなくても補強情報の内容を解析できます。例えば、2026-09-14をStart EpochとEnd Epochに入力してSearchをクリックすると、その日の1時間ごとのアーカイブデータ(各900キロバイト)へのリンクが表示されます。

CLAS archive

ここで、2026257X.l6をクリックすると、2026年9月14日23:00からの1時間分のデータをダウンロードできます。時刻は協定世界時(UTC)で表示されているため、日本標準時(JST)では翌9月15日8:00からの1時間分に相当します。リンク先のURLを指定すれば、curlwgetなどのツールでも直接ダウンロードできます。

このファイルをQZS L6 Toolのqzsl6read.pyで解析すると、施設名やパターンID、PRNを確認できます。

qzsl6read.py -c < 2026257X.l6 | head -10

QZS L6 Tool

いくつかのL6ファイルをダウンロードして観測してみました。確認した範囲では、公式アーカイブのL6データはすべてパターン1(P1)でした。MADOCA-PPPのように、すべてのPRNのL6データがあるといいですね。

また、ファイルによって、表示される管制局名が神戸(Kobe)と常陸太田(Hitachi-Ota)で異なることがありました。以前は、2か所の管制局と各局の2つのデータ生成系のどれを使っても、同一内容の補強情報が生成されていました。

現在も、同じパターンであれば管制局やデータ生成系によらず同一内容の補強情報が放送されているのか、詳細表示オプション-t 1を付けて確認してみようと思います。今回の修正では、管制局やデータ生成系が変わった場合、QZS L6 Toolは別のデータとして扱うようにしました。

L6データにはPRNも含まれています。将来は複数のPRNのデータを同時に解析できるようにして、衛星間で送信データにどのような違いがあるのかを観測してみたいと思います。


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