Galileo HAS(ハス)ライブストリーム
はじめに
欧州の測位衛星システムGalileoは、測位精度を高めるHAS(high accuracy service)補強情報を放送しています。このE6B信号は、Pocket SDR、NovAtel OEM729、Septentrio mosaic-X5にて受信できます。
しかしながら、現在のところ、その情報を活用する方法はないようです。そこで、私のOEM729受信機から出力されるHAS情報のライブストリームを公開します。
HASライブストリーム
RTK基準局にて受信したOEM729の生データをNTRIP(エヌトリップ、Networked Transport of RTCM via Internet Protocol)にて配信します。NTRIPは、衛星測位情報をインターネットで伝送するための標準的な方法です。アドレス、ポート、マウントポイントは次のとおりです。
アドレス | ポート | マウントポイント | 形式 |
---|---|---|---|
ntrip.phys.info.hiroshima-cu.ac.jp | 80 | HAS | NovAtel GALCNAVRAWPAGE |
どなたでも、事前連絡なく、このライブストリームをご利用いただいて構いません。他にも、Allystar受信機生データのライブストリームをCLAS
やMADOCA
のマウントポイントで公開しています。
しかしながら、HAS情報の利用方法は現時点では未知です。例えば、RTKLIBのRTKNAVIのCorrectionなどにこの情報を設定しても、測位精度は向上しません。
このRTK基準局ですが、組織改変のために、2024-08-31以降の運用は未定です。残り1年間にて、色々な実験をしたいと思います。
QZS L6 ToolによるHAS情報観測
そこで、このライブストリーム内容を読めるよう、オープンソースソフトウェアQZS L6 Toolを修正しました。ここでは、python
ディレクトリにあるnov2has.py
を用います。このコードは、標準入力からNovAtelバイナリ形式のGalileo C/NAV(シーナブ、commercial navigation)メッセージ情報を受け取り、標準出力にHAS情報の解読結果を出力します。すでにgitにてQZS L6 Toolをダウンロードしてくださった方は、git pull
を実行して、ソフトウェアをアップデートしてください。
ここでは、上述のライブストリームにアクセスするために、RTKLIBのコマンドラインアプリケーションstr2str
を用います。
上述の映像は、ライブストリームHAS情報の表示を収録したものです。この撮影で、次のコマンドを実行しました。
str2str -in ntrip://ntrip.phys.info.hiroshima-cu.ac.jp:80/HAS 2> /dev/null | nov2has.py -t 2
nov2has.py
の-t
オプションの数値は、情報表示の詳細さを表し、規定値の0では補強項目のみを、1ではその内容を、2ではさらにビットイメージを表示します。
MADOCA-PPPとHASとの比較
MADOCA-PPP(マドカ・ピーピーピー、multi-GNSS advanced orbit and clock augmentation - precise point positioning)は、日本の準天頂衛星みちびきが放送する補強信号のひとつです。MADOCA-PPPとHASとの比較が、しばしば議論されています。そこで、両者の補強メッセージ内容をまとめます。
補強内容 | MADOCA-PPP | HAS |
---|---|---|
対象衛星定義 | ST1 | Mask |
軌道 | ST2 | Orbit |
時刻 | ST3 | Clock fullset, (Clock subset) |
コードバイアス | ST4 | Code bias |
位相バイアス | ST5 | (Phase bias) |
ユーザ精度 | ST7 | — |
MADOCA-PPPでは、メッセージをサブタイプ(ST)にて識別します。また、この表では、メッセージが定義されているものの、現時点で放送されていない補強情報を括弧書きで示しています。
両者に共通するのは、最初に対象となる補強衛星を定義して、その後に具体的な補強値を伝送することです。
MADOCA-PPPでは、衛星時刻(クロック)観測値が、そのほかの観測値と比較して、頻繁に変動することから、その補強値をST3にて頻繁に伝送します。一方、HASでは、コードバイアスの補強値を頻繁に放送することにより、実質的な補強を行う方針のようです。
現時点において、HASは位相バイアス(phase bias)補強値を放送していないようです。一方、MADOCA-PPPは、ST5として、位相バイアスを放送しています。位相バイアス補強値を用いれば、ambiguity resolution(AR)という方法で測位精度を向上できることが知られています。2023-06-05にみちびきホームページで公開されたMADOCALIB(マドカリブ)には、ARを用いて高精度測位するサンプルプログラムrnx2rtkp
が含まれていました。
HASの対象衛星システムは、GPSとGalileoです。一方、MADOCA-PPPのそれは、GPS、GLONASS、Galileo、みちびきの4システムです。
おわりに
Galileo HASのライブストリームを公開し、HAS情報を観察できるようにしました。
高精度測位補強では、MADOCA-PPPとHAS以外に、中国の北斗(BeiDou)の静止衛星C60
とC61
から放送されるPPP-B2bがあります。現在、Pocket SDRとmosaic-X5受信機がこのPPP-B2b信号を受信できます。私はこの両受信機ともに所持していますので、このメッセージも解読してみようと思います。
近年、測位衛星を用いた災害情報伝達や、航法メッセージ認証も急速に普及して、この分野の新技術を追いかけるのは楽しいです。測位衛星分野の急速な発展を楽しみたいと思います。
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