SmartCom 2024(アーヘン)と6GEM(バッファトベルク)
はじめに
電子情報通信学会スマート無線研究会(SR研)が主催するSmartCom 2024と、ドイツの第6世代モバイル通信の研究会議6GEMに参加しました。ともに、移動通信技術の国際共同研究を推進するための会議です。
SmartCom 2024
今年のSmartCom(スマートコム、smart communications)は、11月4日と5日に、ドイツのアーヘンで開催されました。アーヘンは、ベルギーとの国境近くにあります。フランクフルト空港からアーヘンまでは、高速鉄道ICE(Intercity-Express)にて効率的かつ快適に移動できます。ホームには、プラットフォームの番号と、列車の大まかな位置を示すアルファベットが表示されています。
ドイツ鉄道DB(Deutsch Bahn)の切符は、同名のスマホアプリで簡単に購入できます。切符は、事前予約にて安価に購入できるようです。しかし、飛行機到着や入国審査の遅れが予想できないので、電車のホームでスマホにて切符を直前購入するつもりでいました。実は、このときは、決済の段階でクレジットカード会社のSMS認証が入って切符を買えず、また、自動券売機では誤った切符を買うなど、恥ずかしい間違いをしでかしました。
高速鉄道ICEでは、天井に大型モニタがついていて、列車番号、到着予定時刻、乗換案内、走行場所の地図、走行スピードが表示されていて、楽しいです。
また、至るところに走行案内があり、はじめてでも安心して乗車できます。
追加料金を払うことで自転車を乗せることも可能です。
電車も流線形をしていて、美しいです。
アーヘン中央駅(Aachen Hauptbahnhof)もまた、歴史のありそうな美しい建物でした。
SmartCom 2024の開催場所であるFraunhofer IPT(Institute for Production Technology)は、生産技術を扱う研究所です。工場の無線化に、プライベート6G無線を導入する研究も行っています。アーヘン中央駅からFraunhofer IPTまではバスで移動します。Google Mapにて検索しながら乗るべきバスを探しました。バス乗車券は運転手さんから購入します。クレジットカードのタッチ決済も利用できました。
Fraunhofer IPTの隣には、レーザ技術を研究するFraunhofer ILT(Institute for Laser Technology)もありました。アーヘン工科大学(RWTH Aachen University)との共同研究も盛んなようです。
近くでは、羊が放し飼いになっていて、保育園もありました。
招待講演の会場も、広々としていました。
一般の研究発表は、この隣の会場で、ポスター形式にて行われました。
私もポスター発表してきました。
懇親会では、もちろん、美味しいビールをいただいてきました。
Fraunhofer IPTの見学会にも参加しました。プライベート5G無線を用いた工場内の無線通信技術の研究も興味深いのですが、3D切削機械による航空機タービンブレード製作や機構設計も興味深かったです。
アーヘン到着初日には余裕がありましたので、市内を散歩しました。アーヘンの中心部にある大聖堂Domは、ドイツの世界遺産認定第1号だそうです。アーヘン中央駅からDomへは徒歩で行くことができます。
Domのそばには、市庁舎(Rathaus)があります。ここも美しい建物です。
市庁舎内にて、日本の大学のロゴにやや似ているそれを見つけました。
6GEM
今年の6GEM(シックスジェム、6th generation mobile communications research hub for open, efficient and secure mobile communications systems)は、11月6日と7日に、ドイツのバッファトベルクで開催されました。バッファトベルクは、アーヘンからボンまで電車に1時間ほど乗り、さらに、ボンからバスに30分ほど乗ったところにあります。
6GEM開催場所のFraunhofer FHR(High Frequency Physics and Radar Techniques)は、大きなレーダで有名です。この日は天気が悪くて、楽しみにしていたレドーム(レーダードーム)がよく見えず、残念でした。
6GEMの会場は、ここからやや離れたところにありました。講演会では、6G無線のロボットへの応用や電波到達エリアを形成するRIS (reconfigurable intelligent surface)の研究などが発表されました。
ポスター展示やデモ展示は、講演会場のすぐ隣のテントの中で行われていました。
デモ展示では、3Dプリンタにて作成した導波管アンテナを用いたMIMOレーダのデモや、メタマテリアルだけでないステッピングモータを用いた物理RISのデモがあり、とても興味深く、また、楽しかったです。
また、Fraunhofer FHRの見学会では、空港保安検査用10.5 GHz MIMOレーダ、MMIC試作装置、3Dプリンタによる導波管試作装置、プリント基板作成装置とX線検査装置など、多くの研究設備を見学しました。
バッファトベルクには宿泊施設が少ないため、私はボンに宿泊しました。ボンは、ベートーベンが生まれ育った街として有名です。また、ボン大学は、ベートーベン、マルクス、ハイネ、ニーチェが学んだ大学でもあります。いつか、ゆっくりとボンを散策したいです。
GNSS信号観測
せっかくのヨーロッパ出張ですので、オープンソースGNSSソフトウェア無線機Pocket SDRのFE4CH(4チャネルフロントエンド版)ハードウェアと、GNSSアンテナBT-200、アンテナ基台も持参しました。やりたいことはたくさんあったのですが、
- Galileo HAS(ハス、High Accuracy Service)の搬送波位相バイアスメッセージの観測
- Galileo I/NAV(アイナブ、Integrity Navigation)の時刻サービスメッセージ(TSM)の観測
- 欧州SBAS(エスバス、satellite based augmentation system)であるEGNOS(European Geostationary Navigation Overlay Service)の船舶ユーザ向け測位補強サービスESMAS(EGNOS Safety of Life Assisted Service for Maritime Usesrs)のMSI(Maritime Safety Information)メッセージの観測
の、日本では観測できない信号の収録に重点を置きました。あらかじめシェルスクリプトを作成し、効率的にデータ収録を行うつもりでした。
Pocket SDRのtest
ディレクトリにあるpocket_trk_ALL_test.sh
を実行したときに、GPS L1 C/A信号でさえも観測できなかったときに、失敗の可能性に気づくべきでした。USB-C接続ケーブルとして、USB3のものが必要なのに、USB2のものしかなかったのです。Pocket SDRからPCへのデータ転送速度不足のために、標本化周波数24メガヘルツと48メガヘルツのデータが収録できていなくて、I/NAV観測データを失いました。また、Galileo HASが放送されるE6B信号は観測できたのですが、なぜかこの中にHASメッセージが含まれていませんでした。現在、MSIメッセージを確認しています。
このアーヘンとボンで収録したPocket SDR生データを、解析方法も含めて、近日中に公開予定です。需要はないかもしれませんが。
(標本化周波数20メガヘルツにて確認したときはUSB2ケーブルも利用できたのですが、実際の信号収録は24メガヘルツで行ってしましました ;_;)
おわりに
SmartCom 2024と6GEMに参加し、多くの研究者と交流でき、また、新しい研究成果を知ることができました。また、ヨーロッパの研究機関の研究設備を見学でき、とても楽しい出張でした。一方、準備不足のために、GNSS信号観測には失敗しました。次にチャンスがあれば、しっかりと準備をして、より多くのデータを収録したいと思います。