QZS L6 ToolのみちびきL1S信号対応
はじめに
準天頂衛星みちびきは、測位信号だけでなく、測位精度を高める信号や、災害情報伝達のための信号も放送しています。このL1周波数帯で放送されているSLAS(エスラス、sub-meter level augmentation service)メッセージをQZS L6 Toolで表示できるようにしました。研究で使用していたコードを見直して、この中に取り込んだものです。
SLASメッセージの入手
みちびきのL1S信号は、u-bloxのNEO-M8TやZED-F9P、ソニーセミコンダクタのボードマイコンSpresenseなど、いくつかの受信機で受信することができます。これらの受信機は、この補強情報により誤差1メートル以下の測位ができるだけでなく、その内部で利用している生データも出力できます。
このL1S信号は、現在のところ、運用中のみちびきのすべてから放送されています。
ここでは、みちびき公式ページのSLASアーカイブを用いてデータを入手します。このサイトに、日付を入力してSearch
ボタンを押すと、各みちびき衛星が放送した1日分のダウンロードリンクが現れ、また、Download!
ボタンによりまとめてダウンロードすることも可能です。ダウンロードデータは、衛星ごとの1日単位になっています。
GUIに頼らなくても、日付や衛星を指定して、curl
コマンドなどで直接、ダウンロードすることも可能です。
SLASメッセージの表示
例えば、2023-11-10 00:00:00 UTCから23:59:59 UTCまでの1日間にて、みちびき3号機(QZS-3)が放送したL1Sメッセージを表示してみます。上述のサイトからアーカイブファイルQ003_20231110.l1s
をダウンロードして、QZS L6 Toolのpython
ディレクトリにある、qzsl1sread.py
を実行します。そのままでは、高速にメッセージが表示されて読めませんので、ページャーlv
コマンドなどにパイプして、ゆっくり読めるようにします。コマンドlv
とqzsl1sread.py
は、ともにカラー表示できますので、-c
オプションにてカラー表示機能をオンにします。
curl https://sys.qzss.go.jp/archives/l1s/2023/Q003_20231110.l1s -o Q003_20231110.l1s
qzsl1sread.py -c Q003_20231110.l1s | lv -c
lv
では、スペースキーで次の画面に進み、b
キーで前の画面に戻り、q
キーで表示を終了します。
SLASメッセージの内容
SLASメッセージは、測位精度を高める補強メッセージと、災害情報を伝達する災害・危機管理通報(DCR: disaster and crisis management report)メッセージからなります。送るべき情報がないときには、無情報(ヌル)メッセージが放送されます。これらのメッセージ種別は、6ビット長のメッセージタイプ(MT)番号にて区別されます。
補強メッセージ利用は、受信機から受信できた衛星(例えばGPS 5番衛星G05
)までの擬似距離(PR: pseudorange、スードレンジ)を補正値(PRC: pseudorange correction)だけ補正することにより達成されます。すなわち、衛星クロック誤差、衛星軌道誤差、対流圏遅延誤差のすべての影響をPRCにて表現しています。
観測点として、札幌、仙台、常陸太田、小松、神戸、広島、福岡、種子島、奄美大島、糸満(沖縄)、宮古島、石垣島、父島(小笠原諸島)の、合計13ヶ所が用意されています。そのうち、最大5ヶ所までの観測点座標情報が、MT47のmonitoring station informationで通知されます。私たちは、利用できる最も近い観測点の補強情報を使うことになっています。
2023-11-10 00:00:48: Monitoring station information
location 1: Hiroshima 34.350 132.450 50
location 2: Fukuoka 33.600 130.230 50
location 3: Tanegashima 30.550 130.940 100
location 4: Amami 28.420 129.690 50
location 5: Itoman 26.150 127.690 100
ここでは、この5ヶ所のコード番号と、緯度、経度、楕円体高が通知されています。これらの座標は、仕様書に書かれている座標と同じでした。
衛星システムとして、仕様書上はGPS、みちびき、GLONASS、Galileo、北斗が挙げられていますが、実際にはGPSとみちびきのみが利用されているようです。はじめに、最大26衛星の候補がMT48のPRN(擬似雑音番号、pseudo random noise number)マスク情報で定義されます。ここでの候補衛星数は次の17衛星でした。
2023-11-10 00:00:13: PRN mask: G05 G07 G11 G13 G14 G15 G18 G20 G22 G23 G24 G29 G
30 J02 J03 J04 J07 (17 sats, IODP=0)
そして、衛星PRNと軌道情報のデータ発行番号(IOD: issue of data)との対応がMT49のdata issue numberにて通知されます。IODは、各衛星について、どの軌道情報に対する補強なのかを表します。
2023-11-10 00:00:15: Data issue number: IODI=1 IODP=0
G05 IOD=105
G07 IOD= 9
G11 IOD= 28
G13 IOD= 33
G14 IOD=176
G15 IOD= 46
G18 IOD= 1
G20 IOD= 33
G22 IOD= 5
G23 IOD= 40
G24 IOD= 13
G29 IOD= 1
G30 IOD= 99
J02 IOD= 33
J03 IOD= 33
J04 IOD= 33
J07 IOD= 33
最後に、観測局ごとに、最大14衛星のPRCの値がMT50のDGPS (differential GPS) correctionにて伝達されます。
2023-11-10 00:00:17: DGPS correction: Sapporo
G05 PRC= 2.28 m
G13 PRC= 2.12 m
G15 PRC= 1.24 m
G18 PRC= -2.72 m
G20 PRC= -1.96 m
G30 PRC= -2.72 m
J03 PRC= -1.04 m
J04 PRC= 4.08 m
J07 PRC= -1.28 m
この例での候補衛星は17衛星で、この札幌での補強対象衛星数は9でした。
このように、SLASでは、最初からMT50のDGPS correctionメッセージを用いて補強するのではなく、MT47、MT48、MT49の順に復号してから、観測点ごとのMT50のメッセージを復号します。
もう一つの災害・危機管理通報メッセージについては、過去の関連記事にあります。
関連記事
- QZS L6 ToolによるMADOCA-PPP電離層遅延情報の表示 16th August 2024
- QZS L6 Toolの出力形式変更 14th April 2024
- みちびき7機体制に向けたヘルス情報表現 12th April 2024
- 測位衛星Galileoの時刻サービスメッセージ 6th April 2024
- Galileo HAS(ハス)ライブストリーム 25th July 2023
- QZS L6 ToolのHASメッセージ対応 5th March 2023
- みちびきMADOCA-PPPの試験配信開始 18th August 2022
- みちびきアーカイブデータを用いたCLAS衛星補強情報の容量解析 9th June 2022
- 日本の離島に対するみちびきCLAS対流圏遅延補強情報 17th May 2022
- QZS L6 ToolのCLASメッセージ対応 29th March 2022
- 測位衛星メッセージ表示ツールQZS L6 Toolの公開 3rd February 2022