GNSS受信機Septentrio mosaic-go CLAS

category: Gnss

はじめに

GNSS(測位衛星システム: global navigation satellite system)受信機を導入しました。Septentrioのmosaic-go CLAS evaluation kitです。

Septentrio受信機は、私の憧れの受信機の一つではありますが、Digi-KeyやMouserなどの通販サイトでも販売されていません。私は、RTK(realtime kinematic)商用サービスALESを通して間接的にSeptentrio AsteRx受信機を利用してきました。いつかはSeptentrio受信機を所有したいと思っていたところ、CQ出版株式会社のmosaic-go CLAS受信機の予約販売がはじまり、すぐに申し込みました。

mosaic-go CLAS shop page on CQ Publishing

当初、3月10日頃の発売予定とアナウンスされていましたが、実際にはそれよりも1ヶ月くらい早く発売されました。

mosaic-go CLAS受信機

私の購入した受信機は、L1周波数帯、L2周波数帯、そして準天頂衛星みちびきが放送する日本のみ利用できるセンチメーター級補強サービスCLAS(シーラス、centimeter-level augmentation service)が放送されるL6周波数帯、の3周波数帯を受信できるものです。この受信機は、単体にてCLASを利用した高精度測位を行えます。

L6周波数帯の代わりに、L5周波数帯を利用できるx5タイプの受信機も用意されています。L5周波数帯は、GNSSにて広く使われます。しかし、日本で利用するならば、L6周波数帯を受信できるCLASタイプの方が楽しいと思います。

2023年から2024年にかけて打ち上げが予定されているみちびき5号機、6号機、7号機では、L2周波数帯の測位信号を放送しないことになっています(参考:IS-QZSS-PNT-005, 2022-10-24, p.27, Table 3.2.1-1)。そのため、L2周波数帯の代わりにL5周波数帯が利用できれば、さらに嬉しかったです。

このmosaic-go CLASの評価キット筐体は、緻密に作られた金属製で、所有欲を満たしてくれます。

Septentrio mosaic-go CLAS

側面には、電源供給やパソコンとの通信を行うためのUSBポート、マイクロSDカードスロット、そして、タイミング情報を出力可能な2つのシリアルポートがあります。

Septentrio mosaic-go CLAS

パソコンとの接続

この評価キットとWindows PCを接続すると、PCにUSBドライバディスクが現れます。そのドライバをPCにインストールすると、USBネットワークアダプタとして、PCに192.168.3.0/24のひとつのIPアドレスが割り当てられました。PC上のブラウザにて192.168.3.1にアクセスすると、受信機の制御画面に接続できます。ファームウェアバージョンは、現時点での最新の4.12.1です。

mosaic-go CLAS web interface

一方、この受信機をLinux PCに接続すると、ドライバ不要で、Windows PCに接続したときと同様のIPアドレスが割り当てられました。

$ ip a show dev enx1a3202991545
4: enx1a3202991545: <BROADCAST,MULTICAST,UP,LOWER_UP> mtu 1500 qdisc fq_codel state UNKNOWN group default qlen 1000
    link/ether 1a:32:02:99:15:45 brd ff:ff:ff:ff:ff:ff
    inet 192.168.3.214/24 brd 192.168.3.255 scope global dynamic noprefixroute enx1a3202991545
       valid_lft 28008sec preferred_lft 28008sec
    inet6 fe80::8e69:3c74:c3b7:c0c7/64 scope link noprefixroute
       valid_lft forever preferred_lft forever

この受信機に対して、nmapによるポートスキャンを行い、ftp(file transfer protocol)、ssh(secure shell)、http(hyper text transfer protocol)、そして、https(http secure)ポートの開放を確認しました。そして、なぜかDNS(domain name service)のTCPポートが開いていました。DNSにはUDPポートが使われることが多いので、この受信機がどのようにDNS TCPポートを利用しているのかが不思議に思いました。

$ nmap 192.168.3.1
Starting Nmap 7.80 ( https://nmap.org ) at 2023-02-22 17:56 JST
Nmap scan report for 192.168.3.1
Host is up (0.0064s latency).
Not shown: 995 closed ports
PORT    STATE SERVICE
21/tcp  open  ftp
22/tcp  open  ssh
53/tcp  open  domain
80/tcp  open  http
443/tcp open  https

Nmap done: 1 IP address (1 host up) scanned in 0.24 seconds

私は、このウェブインターフェースを遠隔から利用するために、このLinux PC上にて以下のようなsocatコマンドを実行しています。

socat TCP4-LISTEN:1080,fork TCP4:192.168.3.1:80

他のパソコンのブラウザURI欄にhttp://(そのLinux PCのIPアドレス):1080/を入力すると、この受信機にアクセスできます。

GNSS信号受信

早速、この受信機にアンテナを接続し、私の普段使いのMacからこの受信機にアクセスしました。動作画面が美しくて、楽しいです。

mosaic-go CLAS web interface

GNSS -> CLASタブには、地殻変動補正(crustal deformation correction)の設定があるので、オンにしました。

mosaic-go CLAS web interface

日本大陸は、4つのプレート上にあるために、複雑な地殻変動をします。衛星測位座標から地図表記座標を求めるため、正式には、セミダイナミック補正と呼ばれる地殻変動補正をします。この受信機には、国土地理院の現時点での最新の地殻変動パラメータファイルがインストールされていました。この受信機は、海外製品なのに、日本独自の事情も考慮されていて、ありがたいです。

さらに、GNSS -> OSNMAタブには、ヨーロッパのGalileo衛星が提供する航法メッセージ認証サービスOSNMA(open signal navigation message authentication)の設定があります。OSNMAによる認証は失敗することがありますので、ここではOSNMA modeとしてlooseを選択しました。

mosaic-go CLAS web interface

この航法メッセージ認証では、航法メッセージに含まれる時刻を利用することから、リプレイ攻撃(信号をそのまま収録して、好きなときにその信号を再生する)に弱いとされています。そのため、信頼できる時刻情報をインターネットを利用したNTP(network time protocol)にて取得するオプションが用意されています。しかし、私は、インターネット接続なしでこの受信機を利用したいので、このNTP設定はオフのままにしました。

これらの設定を行った上で、GNSS -> Positionタブを開くと、測地系として日本測地系JGD2011が表示されました。また、CLASの仮想基準局(VRS: virtual reference station)により、座標としてRTKフロート解が出力されています。インターネット接続なしでCLASを用いたRTK側位ができています。

mosaic-go CLAS web interface

ここでの座標出力として、フロート解が出力されましたが、より測位精度の高いRTKフィックス解が出力されることもあります。ここでは、屋根よりやや低い位置に設置したBT-200アンテナを利用しました。安定したフィックス解を得るためにはアンテナや設定を見直す必要がありそうです。

GNSS -> Satellites and Signalsタブの下の方にある、Satellite Detailsの項目には、可視衛星ごとに方位角と仰角、そして、追尾している信号がまとめられています。みちびきを表すJに着目すると、L6周波数帯での信号追尾は、現在のところ、受信できる衛星のうちの一つに対して行っていることがわかります。

Sat.	Ch.	Elev.	Azim.	Status
J02	22	52° ↓	178°	Tracking L1CA,L2C
J03	7	81° ↓	35°	Tracking L1CA,L2C,L6
J04	21	41° ↑	163°	Tracking L1CA,L2C
J07	23	50° ↑	189°	Tracking L1CA,L2C

複数衛星からのL6信号を同時受信できれば、一方のCLAS情報が途切れても他方のCLAS情報が利用できるので、移動受信でも安定してCLASが利用できます。今後のバージョンアップ等に期待しています。

GNSS -> Spectrumタブでは、信号スペクトルが表示されるだけでなく、フィルタや周波数帯ごとの利得も設定できます。

mosaic-go CLAS web interface

NMEA/SBF Outタブでは、測位結果や受信状態、衛星が放送するメッセージを出力することができるそうです。

mosaic-go CLAS web interface

ここで、USBシリアルポートに準天頂衛星みちびきの航法メッセージを出力するように設定したつもりでしたが、出力がありませんでした。私が何か間違えているかもしれませんので、説明書を確認します。

Admin -> Configurationタブでは、複数の受信機設定を保存できます。複数設定を簡単に切り替えられるだけでなく、初期設定から何が変更された設定なのかが表示されます。私は、GNSS受信機の設定を色々と変更しすぎてわからなくなり、工場設定に戻して最初から設定せざるを得なくなることもありますので、初期値からの変更が表示されるのはありがたいです。

mosaic-go CLAS web interface

Admin -> Expert Controlタブの情報は興味深いです。Message InspectorのSBF:ReceiverStatus2には受信機の動作状態が表示されています。

mosaic-go CLAS web interface

その下の方に自動利得制御の状態AGC Stateが表示されます。この表示から、この受信機は8ベースバンド受信部を備え、順にGPS L2、GLONASS L2、Galileo E5bとBeiDou B2I、(Galileo E6と表示されていますが)みちびきL6、BeiDou B3I、GPS L1とGalileo E1、GLONASS L1、BeiDou B1I、のそれぞれの信号を受信しているようです。対象とする複数GNSS信号を、ひとつ、またはふたつにグループ化し、それぞれにベースバンド受信部を割り当てるところが興味深いです。

mosaic-go CLAS web interface

最後に、Admin -> Aboutタブにはバージョン表示のほか、株式会社コアへの謝辞とCLAS SSR2OSR(state space representation to observation space representation、状態空間表現から観測空間表現への変換)の記述がありました(CLASにてVRSを実現していますので、SSR2OSRではなく、SSR2OBSのような気もします)。OS欄にはLinuxの表示がありました。

mosaic-go CLAS web interface

Permitted Capabilitiesリンクをクリックすると、多くの機能が許可されていて、楽しい気分になります。

mosaic-go CLAS web interface

ここで許可されていないのは、精密な時間出力と周波数出力だけでした。このAdmin -> Aboutタブの中にある、Diagnostic ReportリンクをクリックするとXML形式での詳細レポートが表示されます。このXMLファイルをダウンロードすると、L5周波数帯受信など、ここには表示されていない不許可機能も記述されていました。

今後、生データ出力や移動測定など、この受信機を活用してゆきます。

まとめ

Septentrio mosaic-go CLAS受信機を導入しました。この受信機は、美しい筐体と使いやすいウェブインターフェースを備えていて、Linuxマイコンなどの接続により外部からのTCP/IPリモート接続ができます。この受信機は、日本向けの高精度測位CLASが利用でき、さらに、Galileoの航法メッセージ認証も利用できて、日本国内で利用すると特に楽しいです。この受信機には多くの機能がありますので、これらを少しずつ試してみたいと思います。