スターリンクユーザになりました
はじめに
スターリンクの日本での受付が2022年10月に始まりました。スターリンクは、高度550キロメートルを周回する多数の衛星を介してインターネット接続を提供するサービスです。私は、自宅と職場にて高速インターネットを利用でき、外出の際もセルラのテザリングが利用できるので、私にスターリンクは必要ないはずです。
しかし、いつかスターリンクを使ってみたいと思っていました。そして、ハードウェア半額セールに背中をおされて、契約しました。
スターリンクの申し込み
本当に私にスターリンクが必要なのかを1週間、考えました。そして、やはり使ってみたくて、2023年1月25日に申し込みました。
ハードウェア費用が73,000円のところ、期間限定で36,500円でした。月額料金は、レジデンシャル(residential)プランでは6,600円、RV(recreational vehicle)プランでは9,900円です。RVプランでの契約では、スマートフォンアプリを使って利用を一時中断でき、利用一時中断中は月額利用料金がかからないそうです。一方、RVプランでの契約は、利用ユーザ数の多い時には、通信速度が低下するそうです。
Users can expect high speed, low latency internet in areas marked “High Capacity”, and notably slower speeds during hours of peak usage in areas marked as “Low Capacity” or during events with many collocated users.
なお、説明ページの内容は、ログイン有無や、閲覧IPアドレスの国により変化します(JavaScriptにて動的にページ内容が変わります)。
プランごとの詳細は、Starlink Specificationsにまとめられています。この記述によると、レジデンシャルプランとRVプランは、固定サービスプランに分類され、移動しながらの利用はできないそうです。また、Starlink Terms of Serviceによると、RVプランの利用範囲は、登録された発送先住所の同じ大陸内であり、異なる国で2ヶ月を超えて利用するときには住所変更が必要とのことです。国別の契約条件はStarlink Legalにまとめられています。ひととおりTerms of Useを確認しましたが、利用者に対して不利なところは見当たりませんでした。ありがたいです。
申し込みの際、はじめに日本語での住所入力が必要です。注文画面には、この日本語住所が表示されます。私は過去に外国郵便物にて日本語住所を書かれたことによるトラブルを経験しましたので、ここでは住所を英語で入力し直しました。入力した住所が正しいことの確認画面に答えて、注文することができました。
注文してすぐに、日本語での確認メールが届きました。そこには、ハードウェアが2週間以内に発送されると書かれていましたが、実際には、注文から10日程度で機器が届きました。発送元は、カリフォルニアのロングビーチです。荷物受け取りの際、関税等の追加料金はかかりませんでした。
セットアップ
荷物を開梱すると、はじめにアンテナ部分(Starlink Dish)があらわれました。
さらにその下には、Wi-Fiルータ、75フィート(約23メートル)のアンテナケーブルと、6フィート(約2メートル)の電源接続ケーブル(3極アースつきのAプラグ)が収められていました。これらのケーブルのルータ側コネクタには、防水のためのゴムブッシュが付いていました。
組み立て説明書はとてもシンプルです。アンテナを基台に差し込み、付属のWi-Fiルータに2つのケーブルを接続するだけです。このルータ側のコネクタは独自仕様です。
もう一つの説明書も、とても簡潔に書かれています。このWi-Fiルータは、100ボルトから240ボルトの50ヘルツまたは60ヘルツの電源を直接取り込める親切設計です。
私のStarlink Dishの型番はUTA-212で、電源としてInput PoE(Power over Ethernet)48 V 2 Aの表示が、また防水表示としてIP54 Type 3Sの表示があります。一方、Wi-Fiルータの型番はUTR-211で、PoE Output 48 V 2.0 Aの表示があります。このWi-Fiルータも、IP54 Type 3Sの防水表示があります。このWi-Fiは、2.4 GHz帯と5 GHz帯のデュアルバンドで、日本国内向け屋内利用限定のW52とW53が利用できます。そのため、このWi-Fiルータは屋内利用に限定されているのだと思います。有線イーサネットポートは本体にはなく、イーサネットアダプタは別売です。
Wi-Fiルータに電源を接続して、1分経過すると、Starlink Dishのアンテナは天頂方向に回転します。このとき、Starlink Dishは、Starlink衛星の発見とエフェメリス(衛星軌道)の取得を行っているようです。それから、さらに2分経過すると、アンテナが、ほぼ北方向の仰角60度程度に自動回転して、衛星インターネットが利用可能になります。
Wi-Fiの設定を行うため、スマートフォンにアプリをインストールして、パスワードなしのWi-FiアクセスポイントSTINKY
に接続しました(STINKYとはなんでしょうか?)。組み立て説明書には、アクセスポイント名はSTARLINK
と書かれていますし、後に再セットアップした際のアクセスポイント名もSTARLINK
でした。Wi-Fiアクセスポイントに接続後、スマートフォンアプリ上で、改めて自らのアクセスポイント名とパスワードを設定しました。
ルータ機能をバイパスするモードもあるそうですが、インターネット記事によると、これによりWi-Fi接続がオフになるそうです。スマートフォンアプリ上には、データ使用量、契約種別などが表示され、サービスの一時停止ボタンがありました。
スターリンクのアンテナを、猫の額ほどしかない、我が家の庭におきました。天空の見通しがあまり良くないため、頻繁に回線が切断されます。
連続利用して5時間程度、経過すると、天空の障害物状況をスマートフォンアプリにて確認できます。
スマートフォンアプリにてデバッグ情報も表示できます。数値情報はあまりないものの、デバック情報を見るのは楽しいです。
なお、接続後に192.168.100.1
にブラウザでアクセスすると、これよりもやや多い機器情報を得ることができます。
インターネット接続
パソコンからこのWi-Fiアクセスポイントに接続すると、DHCP(dynamic host configuration protocol)にて192.168.1.0/24
のIPv4アドレスが割り当てられます。また、IPv6アドレスとして、2406:2d40:xxxx:xxxx::/64
が割り当てられました。
デフォルトルートとDNS(domain name service)サーバアドレスは、ともに192.168.1.1
です。ブラウザでこのアドレスに接続してみましたが(ポート番号80)、特に情報はありませんでした。また、ポート番号9001も開放されていますが、その使い方はわかりませんでした。
SPEEDTESTにて速度を確認しました。ダウンロード速度84 Mbit/s程度、アップロード速度15 Mbit/s程度でした。Wi-Fi接続ですので、こんなものかと思います。
CLI(command line interface)版のSPEEDTESTの結果は次のとおりです。
$ speedtest
Speedtest by Ookla
Server: i3D.net - Tokyo (id: 21569)
ISP: Starlink
Idle Latency: 38.90 ms (jitter: 3.20ms, low: 35.41ms, high: 43.69ms)
Download: 86.13 Mbps [=/ ] 8% - latency: 128.69 ms
Download: 85.18 Mbps [=- ] 8% - latency: 128.69 ms
...
Download: 74.24 Mbps [===================-] 97% - latency: 174.75 ms
Download: 74.22 Mbps (data used: 92.5 MB)
174.75 ms (jitter: 56.92ms, low: 39.21ms, high: 631.91ms)
Upload: 14.89 Mbps [\ ] 0% - latency: 174.75 ms
Upload: 29.47 Mbps [===/ ] 19% - latency: 148.58 ms
...
Upload: 30.30 Mbps [====/ ] 22% - latency: 148.58 ms
Upload: 39.48 Mbps (data used: 63.0 MB)
52.59 ms (jitter: 10.20ms, low: 32.79ms, high: 220.47ms)
Packet Loss: 7.0%
Result URL: https://www.speedtest.net/result/
$
ダウンロード速度は74 Mbit/s、アップロード速度は39 Mbit/sでした。
インターネット接続の相手先に表示されるIPアドレスは、206.83.125.193
(customer.tkyojpn1.pop.starlinkisp.net)でした。日本のユーザすべてでこのIPアドレスが共有されるようです。 ひとつのIPアドレスに4ユーザ程度が収容されているようです(参考:IIJ Engineers Blog Starlinkのネットワーク、アンテナのIPアドレス、NATの仕様などを調べました)。
次にインターネットの接続経路を確認してみます。まずは、IPv4です。
$ traceroute s-taka.org
traceroute to s-taka.org (172.105.211.235), 64 hops max, 52 byte packets
1 192.168.1.1 (192.168.1.1) 4.813 ms 3.201 ms 2.882 ms
2 100.64.0.1 (100.64.0.1) 48.404 ms 44.229 ms 31.760 ms
3 172.16.248.0 (172.16.248.0) 40.468 ms 25.247 ms 29.423 ms
4 149.19.109.14 (149.19.109.14) 33.290 ms 26.521 ms 34.721 ms
5 as63949.ix.jpix.ad.jp (210.171.225.175) 178.507 ms 184.611 ms 184.932 ms
6 if-7-1.csw2-shg1.linode.com (139.162.64.13) 188.489 ms
if-4-1.csw2-shg1.linode.com (139.162.64.23) 181.089 ms 212.236 ms
7 gw.etakahashi.com (172.105.211.235) 471.283 ms 182.959 ms 191.814 ms
$ traceroute qzss.go.jp
traceroute to qzss.go.jp (133.208.95.242), 64 hops max, 52 byte packets
1 192.168.1.1 (192.168.1.1) 9.971 ms 2.942 ms 2.906 ms
2 100.64.0.1 (100.64.0.1) 32.356 ms 37.507 ms 26.533 ms
3 172.16.248.0 (172.16.248.0) 39.327 ms 38.302 ms 24.710 ms
4 149.19.109.14 (149.19.109.14) 39.394 ms 37.895 ms 26.902 ms
5 as2518-2.ix.jpix.ad.jp (210.171.224.181) 38.550 ms 25.590 ms 38.622 ms
6 133.208.191.35 (133.208.191.35) 38.636 ms
133.208.191.163 (133.208.191.163) 28.550 ms 33.202 ms
7 133.208.190.17 (133.208.190.17) 82.719 ms 36.388 ms 26.785 ms
8 133.205.184.85 (133.205.184.85) 38.479 ms 33.120 ms 52.207 ms
9 * * *
10 133.208.95.242 (133.208.95.242) 72.147 ms 56.474 ms 53.867 ms
$ traceroute www.google.com
traceroute to www.google.com (142.251.42.164), 64 hops max, 52 byte packets
1 192.168.1.1 (192.168.1.1) 3.543 ms 3.076 ms 3.220 ms
2 100.64.0.1 (100.64.0.1) 58.519 ms 33.104 ms 91.018 ms
3 172.16.248.0 (172.16.248.0) 55.721 ms 53.578 ms 56.048 ms
4 149.19.109.14 (149.19.109.14) 38.936 ms 32.181 ms 90.773 ms
5 as15169.ix.jpix.ad.jp (210.171.224.96) 55.898 ms 55.221 ms 37.027 ms
6 108.170.242.129 (108.170.242.129) 78.232 ms 46.524 ms
108.170.242.97 (108.170.242.97) 61.242 ms
7 64.233.175.43 (64.233.175.43) 131.710 ms 133.771 ms 34.285 ms
8 nrt12s46-in-f4.1e100.net (142.251.42.164) 87.326 ms 94.677 ms 51.001 ms
$
なかなか良い感じです。ここで、IPアドレス100.64.0.1
はCGNAT(シージーナット、carrier grade network address translation)と呼ばれる事業者グレードの プロキシー アドレス変換サーバに割り当てられるIPアドレスで、公開されるIPアドレス206.83.125.193
の内側のIPアドレスです。
経路確認の過程で、このサイト https://s-taka.org/ 側のIPv4経路が不安定で、遅延時間が大きく変動することに気づきました。後に詳細を確認してみます。
次に、IPv6でも経路を確認してみます。
$ traceroute6 s-taka.org
traceroute6 to s-taka.org (2400:8902::f03c:91ff:fe22:c8a3) from 2406:2d40:xxxx:xxxx:xxxx:xxxx:xxxx:xxxx, 64 hops max, 12 byte packets
1 customer.tkyojpn1.pop.starlinkisp.net 3.328 ms 3.185 ms 2.801 ms
2 customer.tkyojpn1.pop.starlinkisp.net 44.273 ms 55.021 ms 56.197 ms
3 host.starlinkisp.net 55.837 ms 54.753 ms 59.185 ms
4 2620:134:b004::14 52.875 ms 169.379 ms 132.200 ms
5 2001:de8:8::6:3949:1 110.907 ms 38.838 ms 58.661 ms
6 2400:8902:d::2 53.364 ms
2400:8902:c::2 43.043 ms 42.867 ms
7 gw.etakahashi.com 35.169 ms 44.073 ms 66.638 ms
$ traceroute6 www.google.com
traceroute6 to www.google.com (2404:6800:4004:826::2004) from 2406:2d40:xxxx:xxxx:xxxx:xxxx:xxxx:xxxx, 64 hops max, 12 byte packets
1 customer.tkyojpn1.pop.starlinkisp.net 11.780 ms 7.122 ms 2.594 ms
2 customer.tkyojpn1.pop.starlinkisp.net 31.679 ms 44.692 ms 34.704 ms
3 host.starlinkisp.net 42.369 ms 76.278 ms 44.222 ms
4 2620:134:b004::14 87.500 ms 62.279 ms 45.224 ms
5 2001:de8:8::1:5169:2 80.023 ms 36.158 ms 37.312 ms
6 2001:4860:0:1000::1 40.409 ms *
2001:4860::12:0:b77e 50.863 ms
7 2001:4860:0:1::601d 50.408 ms
2001:4860:0:1::601f 142.571 ms 42.795 ms
8 nrt12s46-in-x04.1e100.net 58.741 ms 55.142 ms 56.086 ms
$
素晴らしいです。
有線イーサネットアダプタ
スターリンクを、Wi-Fi接続よりも安定した有線接続にて利用したいと思い、別売のイーサネットアダプタを注文しました。
このアダプタは、米国では20米ドルで販売されているそうです。この日本円での価格はその価格の約4倍ということになります。
しかしながら、私は、会社員だったときに、外国との通信機器の輸出入手続きにとても苦労した経験がありますので、割高なのは仕方がないと思っています。本体ハードウェアを、期間限定ながら、米国での価格の半額近い価格で入手でき、また、ケーブルの作りも良さそうですので、ありがたく思っています。有線アダプタの到着が楽しみです。
おわりに
スターリンクを導入しました。導入してよかったです。
普段から高速インターネットアクセスのできる人々に、スターリンクは必要ないかもしれません。しかしながら、スターリンクは、エンジニアにとって、とても興味深いガジェットです。高速インターネットが利用できる上に、方位角と仰角を自動制御するアンテナ基台、衛星を追尾するアダプティブアレイアンテナ、衛星軌道を自ら取得して衛星を自動切り替え(ハンドオーバ)する制御ソフトウェアを備えていて、素晴らしいです。
約30年前、アメリカのモトローラがイリジウムという衛星通信サービスをはじめました。低軌道周回衛星77機と衛星間通信を利用するもので、そのサービス名として原子番号77を持つ元素名がつけられました。後に、衛星数が66機に縮小され、事業としては苦しそうと伝えられましたが、そこまで成し遂げたエンジニアを尊敬しています。
それから30年経ち、一般にも手の届く衛星インターネットが実用化されて、感慨深いです。衛星軌道情報(エフェメリス)も公開されていますので、電波観測なども含めて、しばらくスターリンクを楽みたいと思います。
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