au Starlink Direct

category: experiment
tags: starlink

はじめに

最近のスマートフォンには、緊急時の衛星通信機能が搭載されるようになりました。通常の無線LANやBluetooth、セルラ、GNSS(衛星測位)の無線モデムに加えて、双方向通信可能な衛星モデムも搭載することは、とてもすごいことです。

さらに、LTE(Long Term Evolution)セルラ周波数帯域を用いた衛星緊急サービスも始まり、これまでのスマートフォンであっても、衛星を用いた非常通信ができるようになりました。

このような衛星は、小さな端末からの電波をキャッチするために、地上高度350キロメートルから650キロメートル程度の低軌道を用いますので、静止軌道衛星のカバーエリアと比較して、カバーエリアが限定されます。これは、一つの衛星を連続利用できる時間が短いことを意味します。このような小さな端末での双方向衛星通信が、どの程度、活用できるのかについて、とても興味があります。

ここでは、日本で2025年5月に提供開始した、セルラ周波数帯域(2 GHz帯であるLTEバンド1、5 MHz帯域幅)を用いた衛星緊急サービスau Starlink Directを試してみました。なお、9月1日からは、通常時にはLTEに加えて5Gが使え、衛星経由でもいくつかのアプリのデータ通信も可能になった、au Starlink Direct+プラン(プラスプラン)が始まっています。

au Starlink Direct利用契約

au Starlink Directは、SpaceXのStarlink Direct to Cellの日本向けのサービスで、日本ではKDDIが提供しています。auはKDDIのサービスブランド名です。

au Starlink Directは、すでにauの回線を利用していれば、そのまま利用できるそうです。私は、これまで他社の回線を利用していますので、スマートフォンの空いているeSIMスロットにau Starlink Direct専用プランを導入しました。

この契約では、auのLTEサービスエリア内ではLTEが利用でき、日本国内のそれ以外のエリアではStarlink Direct to Cellが利用できます。

Starlink Direct専用プランの契約には、対応スマートフォン、クレジットカード、マイナンバーカード、メールアドレス、暗証番号、通信回線が必要です。私は実験用スマートフォンとして、Apple iPhone 16eを利用しています。申し込みは、スマートフォンのブラウザ上から行います。電子的本人確認(eKYC: electric know your customer)のために、マイナンバーカード読み取りとスマートフォンカメラでの自撮りが必要になります。IDとパスワードを設定しますが、IDは現在利用している携帯電話番号になります。

私は、契約の過程でいくつかのトラブルを経験しましたが、メモ帳のコピーペースト活用などでこれらの試練を乗り切ると、楽しい未来が待っています。

私の契約では、6ヶ月間の月額利用料免除期間がついていましたので、11月末まで無料でStarlink Directが利用できるそうです。現在のプラスプランにも、3ヶ月間の月額利用料免除期間がついているそうです。

日本契約のStarlink Directは海外では利用できない

契約翌日、香港の空港でスマートフォンをオンにしてみましたが、au Starlink Directには接続されませんでした。

Starlink Direct to Cell衛星は、日本上空にあるとき、KDDIの免許でKDDIの衛星基地局としてau Starlink Directサービスを提供しています。これが、香港で利用できないのは当然ですが、少しだけ利用できることを期待していました。

au Starlink Direct in Hong Kong

日本国内では、ほとんどの場所でauのLTEが利用できてしまいますので、au Starlink Directを利用するのはなかなか難しいです。

先日、アジアで初めて世界遺産に登録された石見銀山(いわみぎんざん、2007年登録)を訪れて、やっとau Starlink Direct接続を経験できました。これは、龍源寺間歩(りゅうげんじまぶ)という坑道の入口です。

au Starlink Direct in Iwami

龍源寺間歩の出口で、LTE電波が圏外になり、スマートフォンにも衛星利用を表す「SOSマーク」と「衛星マーク」が現れました。嬉しくなって、すぐにAI宛にメッセージを送ってみたのですが、この時点で端末はStarlink Direct to Cell衛星に接続されていませんでした。

au Starlink Direct in Iwami

スマートフォンの設定画面で衛星接続を確認したところ、まだ接続されていないことがわかります。

au Starlink Direct in Iwami

しばらく待つと、「SOSマーク」が消え、代わりに「衛星」の文字と電波強度ピクトが表示されました。画面下部の地球儀には大まかな現在位置と、キャリヤ名KDDIが表示されています。

au Starlink Direct in Iwami

スマートフォンの設定画面にも「SpaceX-au衛星」の文字が表示されています。私は、通常、データ通信を別のSIMカードを利用するように設定していますが、ここでデータ通信をau Starlink DirectのSIMカードを利用するように設定変更する必要があります。

au Starlink Direct in Iwami

au Starlink Direct衛星経由で、AIともメッセージのやり取りができました。

au Starlink Direct in Iwami

なお、技術遺構のお好きな方々におかれましては、石見銀山では、龍源寺間歩と大久保間歩の両方をご訪問されることをお勧めいたします。

iPhone本体に付属の緊急SOS

新しいApple iPhoneスマートフォンには、アクティベートから2年間、利用できる衛星接続サービスが付属しています。これは、Starlink Direct to Cellとは別のもので、Globalstar衛星を利用するものです。1.6 GHz帯を用いているそうです。

au Starlink Direct in Iwami

この緊急SOSのデモンストレーション機能もあります。こちらは、衛星の方向に端末を向けるように指示があります。この方向指示は、時間とともに少しずつ変わり、低軌道衛星を利用しているという実感があります。

このデモンストレーションときには、スマートフォンからのメッセージは送信されないそうです。

au Starlink Direct in Iwami

eSIMの端末間移動

au Starlink Direct接続時に、LTEのTA(timing advance)がどのような値になるのかを知りたいと思っていました。

TAとは、基地局から離れた端末に対し、その伝搬遅延分だけ送信タイミングを進ませるように制御する値です。TAの値1に対して0.52マイクロ秒だけタイミングを進ませます。TA値が100程度になる環境は経験しましたが、通常のLTE基地局よりもかなり遠方にある衛星LTE基地局に対するTA値を是非みてみたいと思っていました。

Android端末には、TA値を含めた、より詳細な接続状況を表示するアプリが揃っていることから、iPhone端末からAndroid端末に、au Starlink DirectのeSIMを移動させることを決意しました。

au Starlink Direct in Iwami

両方の端末に公式アプリを入れて、公式ページの説明の通りに操作すれば、eSIMを移行できますが、

  1. 旧端末では、他社回線とWi-Fiをオフにして、au回線に接続すること、
  2. 新端末では、Wi-Fiに接続した上で、
  3. au回線に接続した旧端末にて、特定ウェブページで「10分間だけ2段階認証をオフにする」の設定して、新端末でアプリを利用できるようにする、

ことが必要です。私は、この第3ステップを承知していなくて、多くの時間を溶かしました。この2段階認証と他社回線からのアプリ接続許可が連動しています。2段階認証を解除しないと、新端末からこのアプリが利用できないことに、注意が必要でした。

おわりに

スマートフォンによる緊急時の衛星通信機能が実現され、とても豊かな時代になりました。多くの方々の努力の跡をブラックボックス化することなく、これからも素晴らしい技術を楽しみたいと思っています。


関連記事