みちびきアーカイブデータを用いたCLAS衛星補強情報の容量解析
はじめに
みちびきが放送するセンチメータ級測位補強サービス(CLAS: centimeter-level augmentation service)に含まれる情報には、衛星に関するものと、地域に関するものとに大別されます。前者について、衛星自身と測位信号それぞれに用いられた伝送ビット数から、補強衛星数増加の可能性を検討しました。
この内容は、2022年測位航法学会全国大会の研究発表会にて発表予定のものです。発表原稿は、この研究発表会のページ内にて公開されています。
QZS L6 Toolの修正
ここでは、2022-01-01 00:00:00UTC(日本時間2022-01-01 09:00:00)から1時間分のCLAS補強情報をみちびきアーカイブデータからダウンロードして用います。
容量解析のために、QZS L6 Tool(キュー・ズイ・エス・エルシックス・ツール)を修正して、衛星数(Nsat)、信号数(Nsig)、衛星に関する補強情報ビット数(Bsat)、信号に関する補強情報ビット数(Bsig)、ヘッダや対流圏遅延などその他情報ビット数(Bother)、無情報(ヌル)情報ビット数(Bnull)を保持するようにしました。この202206ipntj
ブランチをチェックアウトすると、この修正したコードを利用できます。変更したコードは、qzsl62rtcm.py
のみです。
git clone https://github.com/yoronneko/qzsl6tool -b 202206ipntj
この修正箇所は、GitHub上にて容易に確認できます。
この修正したqzsl62rtcm.py
にトレースオプションレベル3-t 3
を設定すると、上述の情報がIPNTJ
のヘッダと共に出力されます。python
ディレクトリにて次のコマンドを実行すると、QZS L6 ToolのサンプルにあるCLAS情報ファイルを解析して、衛星数や必要ビット数などが202206ipntj.txtに保存されます。
cat ../samples/2022001A.l6 | ./qzsl62rtcm.py -t 3 | grep IPNTJ > 202206ipntj.txt
このコードでは、サブタイプ(ST)1のメッセージを見つけたら、それまで集計したビット数などを出力し、カウンタ値をリセットするようにプログラムしました。そのため、最初のデータは無効ですので、集計の際には取り除きます。また、最後のデータは出力されないことになりますので、メインルーチンで強制的に結果を出力しています。
フレーム(ひと通りの補強情報ブロック)伝送に要する時間は30秒で、また、このデータは1時間分ですので、この期間において120フレームのデータが出力されます。ここでは、エクセルを用いてこのデータを集計しました(202206ipntj.xlsx)。
CLAS補強情報の現状
この2022-01-01 00:00:00UTCから1時間に放送されたCLASメッセージは次のとおりです。
ST | メッセージ名 | 補強対象 |
---|---|---|
1 | Mask | (定義) |
2 | GNSS Orbit Correction | 衛星 |
3 | GNSS Clock Correction | 衛星 |
4 | GNSS Satellite Code Bias | 信号 |
6 | GNSS Satellite Code and Phase Bias | 信号 |
7 | GNSS URA | 衛星 |
11 | GNSS Combined Correction | 衛星 |
12 | Atmospheric Correction | 地域, 衛星 |
ST1を復号したところ、補強対象となる衛星数は17〜19で、その平均数は18.3でした。2020年11月30日から放送開始したST12により、最大の補強対象衛星数が11から17に拡張されるアナウンスがありました。現在では、さらに多くの衛星に対して補強されているようです。
これらのCLASメッセージについて、衛星補強、信号補強、その他、無情報それぞれのビット数割合は次のとおりです。信号補強や対流圏遅延補強と比較して、衛星補強に関するものの比が大きいことがわかります。
ゼロパディングされた無情報ビット割合が全体の22%を占めていました。これらの数やビット数の平均値を表にまとめます。
数/周期 | bit/周期 | |
---|---|---|
衛星 | 18.3 | 26169.2 |
信号 | 50.6 | 9584.2 |
その他 | 3509.6 | |
無情報 | 11587.0 | |
合計 | 50850.0 |
この表から、衛星数の増加とともに1340.7ビットづつ増え、信号数の増加とともに189.5ビット増え、また、1衛星あたり2.8信号を放送することがわかりました。
無情報余裕ビットを衛星数増加に利用すれば、単純計算では5衛星程度の追加が可能なようです。また、信号数依存のビット容量は小さいので、現在、放送されていないGalileo E5b信号に対する補強も回線容量上は可能です。
おわりに
CLAS補強情報の衛星補強に関する容量を調査しました。サブタイプ12導入の際に、補強対象衛星数が最大17になることがアナウンスされましたが、現在はそれよりも多い17〜19衛星の補強を確認しました。現行CLASでは、GalileoのE5b信号に対する補強信号は放送されていませんが、伝送容量点ではE5b信号補強情報も放送可能です。衛星数については、あと数機の追加ができそうです。
この結果は、衛星配置にも依存しますので、少なくとも24時間分の解析をしなければなりませんでした。また、電離層活動の活発な7月頃の解析も必要でした。今後の検討課題です。
関連記事
- QZS L6 ToolによるMADOCA-PPP電離層遅延情報の表示 16th August 2024
- QZS L6 Toolの出力形式変更 14th April 2024
- みちびき7機体制に向けたヘルス情報表現 12th April 2024
- 測位衛星Galileoの時刻サービスメッセージ 6th April 2024
- QZS L6 ToolのみちびきL1S信号対応 11st November 2023
- Galileo HAS(ハス)ライブストリーム 25th July 2023
- QZS L6 ToolのHASメッセージ対応 5th March 2023
- みちびきMADOCA-PPPの試験配信開始 18th August 2022
- 日本の離島に対するみちびきCLAS対流圏遅延補強情報 17th May 2022
- QZS L6 ToolのCLASメッセージ対応 29th March 2022
- 測位衛星メッセージ表示ツールQZS L6 Toolの公開 3rd February 2022