テキサスインスツルメンツのBQ25890を用いたリチウムイオン電池の充電
リチウムイオン電池の充電器をマイコンにて制御できれば、普段は長寿命を目指した充電を行い、電源の途絶が予想される前には急速充電を行うなど、より広い領域で電子機器が利用できることが予想されます。
今回、充電パラメータを制御できる、テキサスインスツルメンツのBQ25890の評価キットを用いてリチウムイオン電池を充放電します。さらに、このICは、電源が接続され、かつ、電池充電の必要なときには充電しながら一定電圧を出力でき、一方で電源が途絶したときには電池から一定電圧を出力できます。
以前の実験で使用した電池残量推定IC評価キットと同様に、この評価キットもI2CにてPC等と通信を行います。この2つをマイコンで同時に制御できれば、充放電しながらその結果を観測して、戦略的にリチウムイオン電池を使いこなせるかもしれません。
この評価キット専用のI2C-USBシリアル変換機器EV2300は別売です。今回は、このICに対して設定せずに、そのままの状態で実験しました。今後、Raspberry PiなどのマイコンでI2C通信を行って、このICを追加設定しようと思います。
この評価キットは、ワイヤがそのまま接続できる端子がついています。したがって、配線の短絡を気にせずに実験できます。また、このキット基板上にはテストピンがあるので、容易にこれをマイコンや測定器に接続できますが、VBUS、VSYS、PMDなど、その専門用語の意味を知る必要があります。
外部からの電源供給は、J5と記されたマイクロUSB端子、またはVBUS端子にて行います。入力電圧範囲は、3.9 Vから14 Vと広くて、また高電圧で急速充電を行うことができます。しかし、その回路図によると、電源入力用マイクロUSB端子の電圧は、すぐ隣にあるJ6と記された電源出力用のマイクロUSB端子にそのまま出力されるようになっているので、注意が必要です。今回、USBチャージャにてJ5端子に電源供給しました。電源供給すると、評価キット基板上にある状態を示すLED(STAT, D3)が高速に点滅します。
リチウムイオン電池は、BAT端子に接続します。電源供給した状態でリチウムイオン電池を接続すると、状態表示LEDが点滅から点灯に変わりました。充電電圧は4.1 Vでした。また、電源供給端子の電流が30 mAから450 mAにまで上昇しました。
出力はSYS端子です。出力は4 V程度でした。そのままでは様々なマイコンを駆動することは困難です。しかしながら、Boostモードがあり、5 V出力も可能のようです。そのためには、I2C通信でレジスタ03の5ビット目を1にすることでこの機能をオンにし、初期状態であるJP6のOTG(USB On-The-Go)端子をオープン状態にすれば良いようです。いずれ試してみます。
もう一つの出力はPMD端子です。外部電源が接続されているときにはその電圧が、接続されていないときにはリチウムイオン電池の電圧が出力されるようです。
リチウムイオン電池の充電は、原則として摂氏10度から摂氏45度の範囲内で行うことになっています。しかし、一般財団法人電子情報技術産業協会(JEITA: Japan Electronics and Information Technology Industries Association)が2007年4月20日に示したガイドラインにより、摂氏0度から10度までの範囲では充電電流を半分にして、また、摂氏45度から60度までの範囲では充電電圧を200 mV低くして、より広い温度範囲で安全にリチウムイオン電池が利用できることが示されました。I2C通信にてJEITAモードをオンにすると、この機能が使えるので、いずれ試したいと思います。