CLASマルチストリーム伝送のパターンID
はじめに
準天頂衛星みちびきは、GPSのような測位信号だけでなく、その測位精度を高める補強信号も放送しています。日本国内での高精度測位に特化したこの補強信号としてCLAS(シーラス、Centimeter Level Augmentation Service)があります。
ここでは、これから行われるCLASのさらなる高精度化改修の一つであるマルチストリーム化について調べます。補強情報表示ツールQZS L6 Toolをアップデートした結果を報告します。
CLASマルチストリーム化
現在、稼働中の
- みちびき2号機(QZS2)、
- 3号機(QZS3)、
- 4号機(QZS4)、
- 初号機後継機(QZS1R)、
- 6号機(QZS6)
のうち、QZS6以外の4衛星から同一内容のCLAS補強信号が放送されています。
CLASでは、日本国内をメッシュに区切り、測位衛星ごと、地域ごとに、電離層遅延や対流圏遅延などの大きな情報を作成して伝送しているため、補強対象衛星数が17程度に限定されることが課題でした。
補強対象衛星数を増加させるため、より多くの補強対象衛星を考え、これらを2つのグループに分けて、それぞれパターン1とパターン2とした上で、CLAS補強情報をみちびき衛星で分担して放送する準備が進められています。2025年6月30日から7月14日かけ、このマルチストリーミング伝送の試験がQZS3衛星を用いて行われました。その実験期間が終了した2026年1月19日現在、上述の4みちびき衛星からは同一のCLAS補強情報が放送されています。
このCLASマルチストリーム伝送にあたり、CLAS衛星信号仕様書(IS: interface specification)が、現在のIS-QZSS-L6-005 (2022-09-21発行)から、
- IS-QZSS-L6-006 (2025-01-21発行, 廃版)、
- IS-QZSS-L6-007-Draft (2025-06-??発行, 廃版)、
- IS-QZSS-L6-007 (2025-07-31発行)、
の3回に分けてアップデートされました。ここでは、この内容を読み進めてみます。
現在において、有効なIS-QZSS-L6-005にあるCLAS補強情報ヘッダーは表4.1.2-2のように定義されています。

この2ビット分の予約(reserved)ビットには、ともに1が代入されています。
みちびき管制局は、
- 茨城県の常陸太田(ひたちおおた)市と、
- 兵庫県の神戸市
にあり、CLAS補強情報はそれぞれの拠点で2セット作成されています。施設ID(Facility ID)として、前者には00と01の2セット分が、後者には10と11の2セット分が、この2ビットにそれぞれ割り当てられています。
IS-QZSS-L6-006では、この予約2ビットに、2つの放送パターン(パターン1とパターン2)が記述されるようになりました。

現在のCLASムシングルストリーム伝送では、この2ビットの値が11なので、受信機は従来のシングルストリーム伝送とマルチストリーム伝送とを区別できます。上述のQZS3での試験放送は、この2ビットの値が11のままで行われていたようです。
一方、その第6版公開の半年後に公開された第7版ドラフト版IS-QZSS-L6-007-Draftでは、「常陸太田」や「神戸」の管制局名が消えて、Facility 1, 2, 3, 4と表記されるようになりました。また、この2ビットが表す施設IDとFacility番号との対応が、パターン番号に依存するようになりました。

そして信号仕様書第7版IS-QZSS-L6-007では、この表記が確定しました。

施設IDと施設名との対応
管制局名表記がなくなってしまったことは個人的にやや残念ですが、なぜFacility番号表記になったのかを想像してみます。
Facility 1と2が常陸太田局を、Facility 3と4が神戸局をそれぞれ示すと仮定すると、通常状態に、この3ビット目と4ビット目について
- 常陸太田局は、QZS2(パターン2割当)に01を、QZS4(パターン1割当)に00を、QZS1R(パターン2割当)に11を、QZS5(パターン1)に10を、また
- 神戸局は、QZS2に00を、QZS4に01を、QZS1Rに10を、QZS5に11を
それぞれ割り当て、管制局間とパターン番号間とで補強信号製作系を分散して、障害に対して堅牢にすることを意図していると考えました。
そこで、この1ビット目から4ビット目までの値から、QZS L6 Toolではパターン番号と施設名を次のよう復号してみました。
self.patid = self.mtid >> 2 & 0b11
if self.patid == 0b10 or self.patid == 0b11:
self.patid = 0 # reserved pattern ID
# self.facility = "Unknown" # then, the facility is not defined
else:
self.patid = (self.mtid >> 2) & 1 + 1 # ref.[7], CLAS pattern ID: 1 or 2, ref.[1] Table 4.1.2-2
if (self.mtid >> 3) & 0b11 == 0b00: # CLAS facility ID depends on pattern ID, very complex...
if self.patid == 1:
self.facility = "Hitachi-Ota:0" # Facility 1
elif self.patid == 2:
self.facility = "Kobe:0" # Facility 3
elif (self.mtid >> 3) & 0b11 == 0b01:
if self.patid == 2:
self.facility = "Hitachi-Ota:0" # Facility 1
elif self.patid == 1:
self.facility = "Kobe:0" # Facility 3
elif (self.mtid >> 3) & 0b11 == 0b10:
if self.patid == 1:
self.facility = "Hitachi-Ota:1" # Facility 2
elif self.patid == 2:
self.facility = "Kobe:1" # Facility 4
elif (self.mtid >> 3) & 0b11 == 0b11:
if self.patid == 2:
self.facility = "Hitachi-Ota:1" # Facility 2
elif self.patid == 1:
self.facility = "Kobe:1" # Facility 4
いつか、この答え合わせがあると信じています。このFacility番号と管制局名との対応が誤っていれば、すぐに修正します。
2025年12月25日に、H3ロケットとみちびき5号機が失われ、宇宙空間での衛星座標精密同定の新技術ASNAV(アスナブ、Advanced Satellite NAVigation system)の実証実験ができなくなりました。これはとても残念なことではありますが、早期のQZS5の復活と、ASNAVの実現と、さらには、例えば測距信号認証情報をステガノグラフィ(認証自体の隠蔽)するGPS Chimera(キメラ、CHIp MEssage Robust Authentication)のようなすごい技術がL1C信号ではなくQZS5 L1C/B信号にしれっと実装されてしまうような、失敗を大成功に変えるような面白い展開をとても期待しております。
まとめ
準天頂衛星みちびきのCLASマルチストリーミング伝送において、その補強信号を作成する管制局がどこなのかを考えてみました。みちびきの新技術にキャッチアップできるよう、これからも頑張ってコードを書きます。
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