Allystar HD9310の実験

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HD9310評価キット

日本の測位衛星「みちびき」は、測位信号のみならず、受信機にて生じるであろう測位誤差を補正する信号(補強信号)や緊急信号も放送しています

この補強信号や緊急信号を受信できる受信機がほとんど市場に出回っていないのが課題ですが、この課題は少しずつ解消されてきてます。

東京海洋大学の高須先生の2019年11月の日記・備忘録の7日から11日までの記事に、中国のAllystar社の新しいチップHD9310を搭載したDataGNSS社の評価キットの実験結果が紹介されていました。これはみちびきの補強信号であるL6信号を受信できるものです。私も実験したくなり、早速、評価キット発売元のDataGNSS社に注文しました。注文画面には3種類のバージョンが提示されていますが、もちろん「standard RTK with QZS L6D/E」を選択しました。本体が350USDのところ割引セールで299USDであり、送料込みで330USDの支払い(PayPal支払いで日本円39,230円)でした。

この評価キットを使って出来たことは、CLAS信号(L6D信号)の生データをNTRIP Casterに転送するところまでです。CLAS測位を行うためには、例えばみちびきホームページにあるCLAS Test Libraryで処理できるように変換する必要があります。

HD9310評価キットの外観

届いた基板の表にはHD9310を納めたTAU1302が見えます。

Allystar HD9310基板の表

裏には「support QZS L6D/E」(L6Dはセンチメータ級測位補強サービスのCLAS信号、L6EはMADOCA信号)の文字があります。

Allystar HD9310基板の裏

設定

この測位チップHD9310を設定するためにはWindowsパソコン上で動作するソフトウェアSatrackが必要です。大学屋上にWindows PCがなかったので、Latte Panda Alpha 864を運び込み、リモートデスクトップで作業を行いました。

HD9310制御ソフトウェアSatrack

このSatrackは、HD9310をTCP/IP接続によりリモート制御できます。Linux上で動作するnetcatやRTKLIBのstr2strを使い、または、Windows上で動作するRTKLIBのstrsvr.exeを使いて、HD9310のシリアルポートをTCP/IPに変換して、別のPCにインストールしたSatrackにより設定することもできます。

例えば、HD9310を接続しているWindows PC上のstrsvr.exeで、(0) InputをSerialにしてOpt…に適切なシリアルポート設定を行い、(1) OutputでTCP Serverを選択してPortを例えば2000とし、さらに、「Options」ボタンを押し、Relay Messages欄に(1)->(0)を選び、「OK」を押し、「Start」ボタンを押します。

一方、Satrackの「Device」メニューの「TCP/IP Set」で、Enable TCP/IPをチェック、IP Addressをlocalhost、Portを2000とすると、HD9310評価ボードとSatrackをTCP/IP経由で接続できます。strstr.exeのプログレスバーの下の左側の四角をクリックすると、「Input Stream Monitor」が開き、通信内容をモニターできます。さらに、(2) OutputにNTRIP Serverを選択して設定することにより、このデータを他のNTRIP Casterに転送できます。

RTKLIBによるHD9310出力の観測

私が購入した評価ボードのsoftware versionは3.018.39c548edで、hardware versionはHD9310.7991ade9dでした。これらの情報を得るためには、Satrackの「View」メニューの中の「AR Message」を表示して、「MON」->「VER」の順にクリックします。

Operate RTK EVK with rtklibによると、シルアルポートに!HEXで始まる文字列を送信するとHD9310を設定できるようで、例えば測位衛星群を設定するならばSatrackのCMD画面に表示されている文字列を次のように送信すれば良いようです。

!HEX F1 D9 06 0C 04 00 21 00 00 01 38 21

これらのコマンドは、下記の「HD9310の仕様書」のftpサーバにある「T-5-1908-001-GNSS_Protocol_Specification-V2.3.pdf」なる書類に書かれています。

はじめに、利用衛星群と周波数帯を設定しました。AR Messageの「CFG」の中の「CFG-NAVSAT」で利用衛星群と周波数帯を選ぶことができます。初期状態では、GPS L1(L1 C/A)、QZSS L1、およびQZSS L6が選択されていました。チェックボックスを選び「Send」を押すとその衛星群が設定されます。また、「Poll」を押すと現在の状態が読み込まれます。

すべてのチェックボックスを選択して「Send」「Poll」を押したところ、GPS L1C、BDS、GLONASS、QZSS L1C、Galileo、IRNSS、SBASのチェックボックスが外されました。TAU1302/1303 Multi-band RTK EVKによると、このHD9310オプションCでは、BDS B1I、GLONASS L1、Galileo L1OF、SBAS L1信号も受信できることになっていますので、今後のファームウェアアップデートを期待しています。GPS L2C、GPS L5、QZSS L2C、QZSS L5のチェックボックスは残っていますが、Signal Strengh画面にその衛星信号は現れませんでした。そこで、初期設定(GPS L1、QZSS L1、QZSS L6)に戻しました。

次に、RTCM出力を試してみました。SatrackのPort Monitorでは、シリアルポート通信上のASCII文字は表示できませんでした。Windows版RTKLIBのstrsvrのInput Stream Monitorでは、このような非ASCII表示でき、さらにrtknaviを用いてRTCMメッセージを解読できます。そこで、RTCMメッセージ出力も試してみました。Satrackの「Device」メニューの中の「Set RTCM Rate」にて出力を試みましたが、RTCMメッセージは出力されませんでした。私のHD9310では、ネイティブのRTCM出力ができず、残念でした。このInput Stream Monitorに表示されている非ASCII文字は、L6Dメッセージのようです。

HD9310の仕様書

AllystarによるHD9310の紹介資料(L6DE__tech_intro.pdf)の20ページと21ページにHD9310の出力するL6D信号生データフォーマットが書かれています。この22ページには、L6D信号とL6E信号が同時受信できると書かれていますが、上述の高須先生の記事によると次のファームウエアでの機能になるそうです。これも今後のお楽しみです。

この8.Enable/Disable specific message outputに書かれたClass IDとMSG IDは、出力設定に必要です。L6DE_tech_intro.pdfの21ページによると、L6D生データのClass IDは0x02、MSG IDは0x10のようです。AR MessageのCFG CFG-MSGでこのClass IDとMSG IDを指定してPollを押したら1となったからです。

また、27ページには、ファームウェアがあるとされるFTPサーバーのアドレス、ID、パスワードが書かれています。早速、アクセスしてみました。HD9300シリーズのパンフレット、Satrackの新しいソフトウェア、NAVIC(旧IRNSS)の受信結果を示すドキュメント、QZSS L6信号のドキュメント「QZSS L6 Enabled Multi-band Multi-GNSS Receiver(L6DE_tech_intro.pdf)」、そしてファームウェア(拡張子がcyfm)がありました。見つけたファームウェアは次の通りです。

  1. HD9310A.HDBD.GN3.115200.8067.0dcba.190813T1.cyfm (オプションA用のファームウエア)
  2. HD9310B.HDBD.GN3.115200.8067.0dcba.190813T1.cyfm (オプションB用のファームウェア)
  3. TUMSAT_OptionC_QZS_L1_L6D.115200.7991.ade9d.20190730.cyfm (東京海洋大学版?オプションCのL6D用ファームウェア)
  4. TUMSAT_OptionC_QZS_L1_L6E.115200.7992.29e21.20190807.cyfm (東京海洋大学版?オプションCのL6E用ファームウェア)

ここでの東京海洋大学(=TUMSAT)版?とは、測位航法学会GNSSサマースクール2019の7月30日のクラスで紹介され配布された評価ボード用のようなので、このように表現しました。よくみたら、3.のファイル名は、私が購入した評価ボードのhardware versionと、「ade9d」の部分が一致しています。おそらく、現在のファームウェアはこの3.のもので、L6E用は4.のものでしょう。一通り動作確認したら、Satrackでファームウエア更新して確認してみようと思います。

GPS/GNSSシンポジウム2019に参加しました。「センチメータ級補強サービスの現状」では、CLAS信号は2020年3月に現行フォーマット(subtype 8/9)から新フォーマット(subtype 12)に移行して、補強対象衛星数が14から17に増えるとのことでした。上述のCLAS Test Libraryも近々改定されるそうです。今後のL6信号が楽しみです。


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