基準信号発振器の周波数安定度試験
はじめに
無線送信機や無線受信機は、内部に発振回路を持っていることがほとんどです。しかし、外部のより高安定で高精度な発振回路が利用できるようになっていることもあります。このような基準周波数として、10 MHzが広く用いられます。ソフトウェア無線機(SDR: software defined radio)の中にも、外部の発振回路が利用できるものがあります。
このような発振器の周波数安定度を測定してみました。
周波数安定度測定
観測時間が長くなると、雑音の平均化効果により、周波数安定度は高まります。さらに観測時間が長くなると、周波数変位の影響が顕著になり、周波数安定度は低く表示されます。横軸に平均化時間を、縦軸にその偏差をとり、プロットしたものがアラン偏差(Allan deviation)です。アラン偏差が小さいほど、高安定な発振器であるといえます。
ここで使用した周波数安定度アナライザは、Turn Dynamic SystemsのFSA3011です。私は AliExpressにてこのFSA3011を購入しましたが、機器仕様や会社詳細は不明です。しかし、周波数安定度測定で個人的に参考にしているインターネットサイトLeapSecond.com(leap second=うるう秒)にこのFSA3011の資料があり、とても参考になりました。
このFSA3011では、自らで基準発振器を用意しなければなりません。ここでは、私の持っている2台の発振器を利用しました。基準(REF: reference)発振器としてHewlett Packard Z3805Aを、また、測定対象(DUT: device under test)発振器としてTM5301を、それぞれ利用しました。
FSA3011のREF入力とDUT入力の電圧範囲は、ともに0.8 Vpp (peak-to-peak)から3.3 Vppまでなので、入力レベルオーバへの注意が必要です。
Z3805Aの10 MHz基準信号は、BNCコネクタにて出力されます。オシロスコープで観測した出力レベルは6.16 Vppでした。そこで、この出力に10 dBのパッド(同軸減衰器)を接続してFSA3011のREF端子入力に適合させました。一方、TM5301の10 MHz基準信号出力については、出力が4.88 Vppでしたので、FSA3011のDUT端子入力に適合させるために3 dBのパッドを使用しました。
両者がともに同一周波数の正弦波を出力するならば、それぞれオシロスコープのX軸とY軸に接続すると、画面上に円または直線が表示されるはずです。このような図形をリサージュと呼びます。ここでは、Z3805Aの方の出力が綺麗な正弦波ではないために、リサージュがゆがんでいました。
この2台の基準発振器の両方には、GPS電波をもとに周波数を安定化させる機能があります。私の研究室は電波受信状態が良くないため、このGPS同期機能を用いることができませんでした。このリサージュが2秒間程度にて円から直線になりましたので、両者の間で0.5ヘルツ程度の周波数差があることになります。
アラン偏差
このFSA3011をWindows PCに接続すると、PC側には115,200 bpsのシリアルポートとして認識されます。専用ソフトウェアを起動して、シリアルポートのビットレートや観測時間などのパラメータを設定すると、過去データからリアルタイムでアラン偏差が表示されます。このFSA3011は、1秒に1サンプルの測定を行います。例示されている観測は20,000ポイント(6時間弱)ですが、ここでは2,000ポイントにしました。
これらの基準発振器にGPSアンテナを接続し、本来の性能を発揮できるようにした上で、私の持っている受信機の周波数安定度を測定する予定です。