マイクロ分光器C12880MAとAnalog Discovery 2を使った光スペクトラムの観測
はじめに
人間は赤・青・緑の光強度比からその色を判断しますが、他の動物は別の光波長の強度比から色を判断します。光スペクトラムは連続値をとりますので、人間や動物の目で見えている色が、その物体の正しい光スペクトラムを表しているとは限りません。
一方、植物の葉が緑色なのは、それが緑色の光を吸収せずに反射しているからなので、植物に緑色の光を与えても成長しません。分光は農業IoTに役立つかもしれません。
そこで、今回は分光器を製作して、様々な光を観測しました。
浜松フォトニクス製マイクロ分光器C12880MA
今回、使用したディジタルマイクロ分光計は、CMOSリニアイメージセンサと凸面ブレーズドグレーティングにより光スペクトラムを検出するものです。この分光器で測定できる光波長範囲は、340 nmから850 nmであり、赤外線の一部から紫外線の一部まで観測できます。この分光器は秋月電子にて販売されており、また仕様書もあります。製品にはその較正表も添付されていました。
なるべく簡単にこの分光器を利用するために、DigilentのAnalog Discovery 2を用いました。この分光器使用に必要なアナログ信号観測、クロックパルス生成、電源供給がこの1台でできるからです。電源や制御の電圧は5 Vで、ビデオ出力は0 Vから5 Vの範囲のアナログ値です。
機器のセットアップ
実験に用意したものは、マイクロ分光器C12880MA、Analog Discovery 2、ブレッドボード、ピンヘッダ、ジャンパーピン、そしてPCだけです。あらかじめ、Analog Discovery 2に必要なソフトウェアをダウンロードし、インストールします。ここでは、Analog Discovery 2とC12880MAとを次のように配線します。
ここで、W1とW2はAnalog Discovery 2の任意波形発生出力を表します。1+と2+はAnalog Discovery 2のオシロスコープ入力を、NCは無接続(non connection)、GNDはグランド(ground)をそれぞれ表します。また、Analog Discovery 2のオシロスコープ入力のマイナスピン1-と2-はGNDに接続します。Analog Discovery 2には、わかりやすい配線図がついていて、線も色分けされています。
C12880MA | Analog Discovery 2 | 機能 |
---|---|---|
pin 1 | 赤 (V+) | 5 V |
pin 2 | 黒 (GND) | GND |
pin 3 | 赤 (V+) | 5 V |
pin 4 | 黄 (W1) | clock pulse |
pin 5 | 黒 (GND) | GND |
pin 6 | 黄白 (W2) | start pulse |
pin 7 | trigger pulse output | |
pin 8 | NC (non connection) | |
pin 9 | 紫 (2+) | end of scan output |
pin 10 | 橙 (1+) | video output |
pin 2, 5 | 橙白 (1-) および 紫白(2-) | oscillo scope ground |
次に、Analog Discovery 2を設定します。C12880MAは、スタートパルスの立ち上がりで光を蓄積して、スタートパルスの立ち下がりでデータ出力を開始します。ただし、有効データが出力されるのはクロックパルス89パルス目以降なので、正しく観測するためには、スタートパルス立ち下がりからクロックパルス88個分のビデオ出力データを読み飛ばさなければなりません。有効データ数は288です。この仕様に基づいてAnalog Discovery 2を設定するのは困難なので、スキャン終了(end of scan)パルス出力の立ち下がりでトリガをかけ、遅延掃引により光スペクトルを表示することにしました。
Analog Discovery 2ソフトウェアのWelcome画面で、Scope、Supplies、およびWavegen機能を追加して、それぞれの機能を設定します。
Scopeを、end of scan 出力の立ち上がりでトリガをかけるようににし、そのしきい値を電源電圧の半分(2.5 V)に設定しました。SuppliesのV+を5 Vに設定しました。Master EnableがOffの状態でも、V+には1.55 V程度、出力されていましたが、故障はしませんでした。
また、Wavegenにおいて、クロックパルス(W1)を方形波の周波数を100 kHzに、そのデューティ比を50%に設定しました。また、スタートパルス(W2)を方形波の200 Hzに、そのデューティ比を60%に設定しました。後者のデューティ比を大きくすると、蓄積時間が長くなり、感度が高まります。また、クロック周波数を低くしても感度が高まります。クロックパルス周波数の最大値は5 MHzです。スタートパルス周波数は、クロックパルス周波数の1/381以下にしなくてはなりません。
これらの設定ファイルをここにおきました。必要な方は、ダウンロードして、ご利用ください。
光スペクトルの観測
環境光
はじめに、研究室の環境光スペクトラムを測定しました。光源は蛍光灯と自然光です。
結果は次のようになりました。図の横軸の-3 msの少し右側から、0 msのところまでが、光スペクトラムの有効データです。左側が短波長(紫色)、右側が長波長(赤色)です。
この観測では、複数ピークのある連続スペクトルが観測されました。ビデオ出力には、0.5 V程度の背景雑音がありました。具体的な波長は、パルス数を数えて、その較正表から求めなければなりません。
LEDライト
100円ショップで購入したLEDライトのスペクトラムを測定しました。この光を直接、分光器に当てるとビデオ出力が飽和しましたので、光軸をずらしました。
先の蛍光灯と比較して、このLEDライトの光は似たような色に見えますが、ピーク波長が異なりました。また、2つのピーク波長が観測されました。
赤外線投光器
ここで用いた赤外線投光器のLEDは、OptoSupply社のOSI5LA5453Bであり、ピーク波長が940 nm、1個あたりの放射強度が約30 mW/Srのものです。この投光器は、このLEDを56個、組み合わせています。この光は可視ではありませんでした。このLEDの仕様書に線幅(スペクトル広がり)は書かれていなく、その光はこの分光器で測定できないと思っていましたが、試してみました。
測定結果は、次のように、長波長領域に大きなスペクトラムが現れました。
ピーク波長はこの分光器の測定範囲外でしたが、そのスペクトル広がり部分は観測できました。このLEDを分光器に近づけると、すぐに出力が飽和しました。この光出力は大きいようで、目に見えないために直接LEDを覗くことは恐ろしいです。
紫外線LED
次に、紫外線LEDを測定しました。このLEDは、小学生向けの学研の自由研究キットにあるもので、中心波長や線幅などの仕様は不明です。紫外線も前項の赤外線と同様に目に見えないはずですが、このLEDに通電すると青色の光が見えます。LEDの発光色の最短波長は、母材の禁制帯幅により決定されますが、そのスペクトルは長波長側に広がって可視光領域に届くため、中心波長が紫外線のLEDであっても、その発光が見えてしまうです。
測定結果は、強力な単一スペクトルの光であることを示していました。
まとめ
目に見えない光を観測することは楽しかったです。次は、M5Stackで簡単に持ち運びのできる分光計を作ってみたいです。浜松フォトニクスのマイクロ分光器のカタログには、他の波長範囲を観測する分光器や、高感度分光器もありました。分光器以外にも、サーモグラフィや、CO2センサも試してみたいです。