ワイヤレスIoTセミナーでのLPWAに関する講演と実演
概要
総務省中国総合通信局主催のワイヤレスIoTセミナー〜新技術LPWAが拓く可能性〜で「LPWAの基礎と応用」と題した講演と実演を行いました。LPWA (Low Power Wide Area) とは比較的容量の小さいデータを長距離まで伝送する新しい無線です。
LPWAとはどのようなものか、なぜ低消費電力で遠くまで情報を伝達できるのか、どのようにしたらLPWAを始められるのか、本当に遠くまで届くのか、を一般向けに解説しました。実演内容は、EnOceanによる温度センシング結果のクラウドグラフ化、Sigfoxによる温度センシング結果のクラウドグラフ化、およびLoRa (Long Range, ローラ)を用いた長距離メッセージ伝送です。
ハンドアウト資料はこちらに掲載されています。
実演内容
LoRa、EnOcean (エンオーシャン)、そしてSigfox (シグフォックス)の3種類のLPWAについて実演(デモンストレーション)を行いました。
1. LoRaの双方向通信
LoRaは遠距離情報伝達を意図したLPWAです。LoRaをそれぞれ接続したサーバ(Raspberry Piマイコンを接続)とクライアント(パソコンを接続)で実験しました。クライアント側のパソコンから文字を打ち込むと、LoRaによりサーバ側のマイコンに伝送され、サーバ側ではその文字列とその時の受信電波強度をクライアント側にLoRaにより送信します。クライアント側にて、自らが送信した文字列とその時のサーバ側での電波強度を表示する実演です。
2. EnOcean温度センサデータのクラウドへの送信
EnOceanは低消費電力にて無線回路と制御マイコンを動作させることを意図したLPWAです。太陽電池に屋内蛍光灯程度で発電できる電力で無線回路と制御マイコン、さらには小さなセンサを動作させることができるので、無線センサ部分の電池交換が不要になる利点があります。このデモでは温度センサ付きのEnOnceanから送信したデータをパソコンで受信して、パソコンに接続したセルラ回線によりそのデータをクラウドサービスAmbientに送信する実演です。
3. Sigfoxによる温度データのクラウドへの送信
Sigfoxは実数値データ3から6個程度の小さなデータを事業者が用意した基地局に伝達して保存することを意図したLPWAです。事業者が基地局を整備しますので、Sigfoxクライアントを購入するだけでデータ伝送ができますが、年間に数千円程度の利用料金がかかると言われています(まだ登場してから1年間が経っておらず、購入時に1年間の無料使用権がついているので、これからいくらかかるのかは不明です)。ここでは開発キットに手を加えずに温度、電源電圧、そして送信回数を送信する実演を行いました。
講演内容(LPWAの基礎と応用, 45分間)
LPWAの基礎
- LPWAは、あらゆるアプリケーションに適合させることよりもむしろ、複数機器からの少ないデータを伝達することを目指した通信方式といえる。
- LPWAの得意なことは、小さなデータ(実数値観測データを3から10個程度)を遠くまで伝えることと、小さな電源で運用すること(遠くまで届くから機器消費電力の多くを占める無線送信出力を小さくできる)である。
- 一方、LPWAの苦手なことは、データを実時間(リアルタイム)伝送すること、データを連続送信する(送信間隔規定が存在するものもある)、データの機密(セキュリティ)を保つこと、大容量伝送や(緊急時に他端末の発信を抑制させるなどの)優先制御を行うこと、である。必要ならばこれらの機能の一部をLPWAに付加できることもあるが、低消費電力などのLPWAの利点が損なわれる。
- LPWAが低消費電力動作できる理由は、通信方法をできるかぎり単純化したからである。
- LPWAが長距離通信できる理由は、通信速度に対してより広い帯域幅を使ってその帯域幅の余裕を電波強度の余裕に変換する、またはその反対に帯域幅をできる限り狭くすることにより熱雑音を小さくして強度の弱い電波をキャッチしやすくするためである。
- したがって、LPWAに適した用途の例としては、電気・ガス・水道の利用量伝達、温湿度・土壌水分・水位・橋梁・地すべりの監視、自動販売機の在庫通知などがある。
- LPWAの種類により構成や「得意なこと」が異なるために、種類の選択または組み合わせが必要になるかもしれない。
- LPWAの簡易実験は1万円程度から始められる。
LPWAの種類
- LoRa: 複数台の無線機間で対等に遠距離通信できる。ゲートウェイ(LoRaWAN)を自ら、または、事業者にて用意して、ネットワークに情報を集めることもできる。
- EnOcean: 電池交換不要な子機から、PCに接続した親機への片方向通信である。子機では環境光やスイッチの押す力をエネルギに変える。同一フロア内や同一建物内の、温度、湿度、スイッチ状態の変化を監視する。データ表示の方法などは自らで準備する。データ送信頻度は電池状態などで変化する。
- Sigfox: 利用者の子機から、事業者が用意した基地局への、原則として片方向通信である。送信1回につき実数値3データ(12バイト)まで、送信間隔は10秒以上必要で、1日に140回までの送信制限(約10分20秒に1回の等間隔送信に相当)がある。使用料が安価である。
- Wi-SUN (Wireless Smart Utility Network): 親機と複数子機との間で対等に通信できる。電気メータ通信などの公益通信を目的にしているので、通信の認証機能や暗号化機能がある。
Wi-SUNとLoRaの通信実験
地面は水分を含み、また、電波経路の遮へいも増えるため、無線通信には不利な状況である。しかし、Wi-SUNとLoRaでは、ともに200 m以上の離れたところまで通信を行えた。