測量級GNSSアンテナの設置方位角方向

category: gnss
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アンテナの北方向を意識しなければならない理由

センチメートルオーダの衛星測位を行うためには、アンテナの電気的中心位置(位相中心)を考慮しなければなりません。

GNSSアンテナ筐体内部にあるアンテナ素子として広く用いられるマイクロストリップアンテナでは、物理的中心位置でのインピーダンスはゼロオームになります。そこで、アンテナ素子の物理的中心位置から一定距離だけ離れた適正インピーダンス(通常は50オーム)になる点に、またはインピーダンス変換を行うことを前提にしたアンテナ素子端に、アンテナ素子の裏面から穴をあけて、アンテナ素子表面にはんだ付けをして給電する構造になっています。アンテナ筐体を少しでも小型にするために、アンテナ素子をアンテナ筐体の中心に配置すると、物理的アンテナ中心とアンテナ位相中心とで水平方向に位置差が生じます。

さらに、このようなGNSSアンテナでは、複数周波数帯を同時観測するために、複数アンテナ素子を同一筐体に収めています。マイクロストリップアンテナは、水平方向に広がりを持つ構造になっています。複数アンテナ素子をコンパクトに筐体内に収めるため、垂直方向に複数アンテナを積み重ねるので、これらのアンテナ間において特に垂直方向での位相中心の位置差が発生します。結局、使用周波数帯ごとに、アンテナの3次元位相中心位置が異なることになります。

また、アンテナ筐体にはアンテナ素子を保護するためのレドーム(由来はradar dome)を備えています。アンテナ素子そのものによる仰角位相特性に加えて、レドームによる電波到来の仰角方向の位相変動があります。マイクロストリップアンテナには、電界面(E面)や磁界面(H面)と称される方位角方向での位相特性差も存在します。しかし、円偏波を発生させるためにアンテナ素子の2箇所にて90度の位相差を加えて給電するために(ターンスタイルアンテナ構造)、方位角方向の位相変動は充分に小さいものと考えられます。

そのため、測量級GNSSアンテナを用いるときには、アンテナメーカの定めた北方向に合わせてアンテナを設置します。そして、RTKなどの測位を行うときには、アンテナ位相中心位置と位相変動データを利用して、異なる周波数帯での位相中心や仰角による位相変動を補正して揃えた上で解析します。

アンテナ設置における方位角方向

このような補正のために、アンテナ参照点(ARP: antenna reference point、通常はアンテナ底面)が決定され、 使用周波数ごとにARPから位相中心までの変位(PCO: phase center offset)と、天頂から水平までの位相変動特性(PCV: phase center variation)とが測定されています。これらのデータは、アメリカ海洋大気庁(NOAA: National Oceanic and Atmospheric Administration)のNational Geodetic Survey (NGS)サイトやアンテナメーカサイトにて公表されています。

私が使用しているアンテナJavad GrANT-G5Tは、JAVGRANT_G5Tという型番で管理されています。NGSのアンテナ較正ページにある「Browse Antenna Information by Company Brand and Model」をポイントし、その中のJAV - Javad, Inc.を選択します。この型番のDrawingを見ると、RXC to North、すなわちアンテナコネクタ(RXC: receiver antenna connector)を北方向に向けて設置すると書かれていました。ARPはアンテナ底面でした。ここに書かれたNONEとは、アンテナに取り付ける接地板(グランドプレーン)や、地面などの反射波混入を抑制するチョークリングなどの性能を向上させるオプションがついていないことを意味します。

アンテナ位相

このアンテナJAVGRANT_G5Tに対する位相変動特性(PCV)をNGSウェブサイトから取得するために、該当型番の「Calibration」欄にあるANTINFO(antenna information)をクリックします。

     1.4            G                                       ANTEX VERSION / SYST
A                                                           PCV TYPE / REFANT
This calibration extracted from composite ngs14.atx.  See   COMMENT
the composite file ngs14.atx for more information.          COMMENT
                                                            END OF HEADER
                                                            START OF ANTENNA
JAVGRANT_G5T    NONE                                        TYPE / SERIAL NO
FIELD               NGS                      4    04-MAR-14 METH / BY / # / DATE
     0.0                                                    DAZI
     0.0  80.0   5.0                                        ZEN1 / ZEN2 / DZEN
     2                                                      # OF FREQUENCIES
NGSRA_2120                                                  SINEX CODE
CONVERTED FROM RELATIVE NGS ANTENNA CALIBRATIONS            COMMENT
   G01                                                      START OF FREQUENCY
      3.06      1.67     50.24                              NORTH / EAST / UP
   NOAZI    0.00    0.47    0.79    1.06    1.06    0.97    0.62    0.29    0.00   -0.34   -0.48   -0.72   -0.76   -0.78   -0.51    0.26    1.63
   G01                                                      END OF FREQUENCY
   G02                                                      START OF FREQUENCY
      0.41     -4.16     55.95                              NORTH / EAST / UP
   NOAZI    0.00   -1.13   -1.51   -1.38   -1.09   -0.68   -0.30   -0.17   -0.22   -0.42   -0.76   -1.26   -1.93   -2.53   -3.33   -4.13   -4.58
   G02                                                      END OF FREQUENCY
                                                            END OF ANTENNA

G01はGPS L1周波数帯を、G02はGPS L2周波数帯を表し、この情報は2周波数帯を含んでいます。このファイルから、ARPからのL1帯アンテナ高度が50.24 mm、L2アンテナ高度が55.95 mmと、両アンテナ間に約5 mmの高度差があることがわかります。NOAZI(non-azimuth-dependent pattern、すなわち方位角に依存しない位相変動補正のことで、定義はここにあります)にある17個からなる数値は、天頂方向から水平方向までの5度ごとのミリメートル単位の位相変動補正量を表しています。

アンテナ位相を補正して異なる周波数帯での位相中心を揃えて解析するために、この情報をファイルに保存し、RTKLIBなどの解析ソフトウェアでそのファイルを指定します。

その他の多くのアンテナも収録されているngs14.atxもありますが、ファイルサイズが16メガバイトと大きいので、直接リンクは避けました。

https://www.ngs.noaa.gov/ANTCAL/LoadFile?file=ngs14.atx

RTKLIBでの設定

ここでは、さらに衛星のPCVファイルであるigs14.atxをCDDIS (Central Dynamics Data Information System)のホームページからダウンロードしておきます。

RTKLIBにあるRTKNAVIにおいて、Options -> Positions のAntenna Typeのチェックボックスにチェックして、さらに、JAVGRANT_G5T NONEと記述します。

RTKLIB antenna type setting

RTK基準局がRTCM 1007 (Antenna Descriptor)、RTCM 1008 (Antenna Descriptor and Serial Number)、またはRTCM 1033 (Receiver and Antenna Descriptor) メッセージを放送しているならば、このアンテナタイプ欄をアスタリスク*にして、アンテナ名を自動設定することが可能です。私の管理しているRTK基準局でもRTCM 1033メッセージを放送するように設定しました。

次にアンテナPCVを設定します。Options -> Filesにngs14.atxigs14.atxを指定します。

RTKLIB PCV files setting

RTKLIB str2strでのRTK基準局設定

基準局にてRTCM 1033メッセージが放送できると、受信機側では基準局ごとにアンテナタイプが自動設定されて便利です。基準局座標はRTCM 1005メッセージにて放送しています。私の基準局では、u-blox ZED-F9Pのraw messageからRTCM 3メッセージを放送するために、RTKLIB 2.4.3 b33のstr2strを用い、次のオプションをつけてNTRIP Casterに向けて送信しています。

str2str \
    -in  [u-blox ZED-F9P受信機からの入力]#ubx \
    -out [NTRIP Casterへの出力]#rtcm3 \
    -msg 1005(10),1033(10),1019,1020,1042,1044,1045,1046,1077(1),1087(1),1097(1),1107(1),1117(1),1127(1) \
    -p   34.44010565 132.41478259 233.057 \
    -i   "u-blox NEO-F9P,HPG1.13,N/A" \
    -a   "JAVGRANT_G5T NONE,N/A,0"

-pオプションは基準局の緯度・経度・高度を、-iオプションは受信機タイプ・ファームウェアバージョン・シリアル番号を、-aオプションはアンテナタイプ・シリアル番号・地点番号(整数)を、それぞれ表します。シリアル番号は内緒(N/A: not available)にさせてください。

ちなみに、私のNTRIP Casterもstr2strにて動作させています

これから、アンテナ位相変動設定の効果を確認してゆきたいと思います。