MADOCA-PPP広域電離層情報カバーエリアの更新

category: gnss

はじめに

準天頂衛星みちびきは、測位信号だけでなく、一般の衛星測位と組みあわせて測位精度を高めるための測位補強メッセージも放送しています。

その一つのMADOCA-PPP(マドカピーピーピー、multi-GNSS advanced orbit and clock augmentation - precise point positioning)は、世界中の地上観測ネットワークを用いて衛星固有の誤差を推定するものです。これは、精密単独測位(PPP)という技術に属するもので、安定した座標が出力されるまでに15分から30分程度の時間がかかります。

来年度に打ち上げ予定のみちびき6号機(QZS-6)と7号機(QZS-7)からは、より短時間に安定した座標を出力できる広域電離層情報が提供される予定です。この機能はMADOCALIBとMADOCA-PPPインターネット配信を用いて試すことができます。ここで用いられる広域電離層情報はQZS L6 Toolを用いて読み出すことができます。そのときに観測した広域電離層情報のカバーエリアは、日本全域とオーストラリアの一部だけでした。

しかしながら、2024年12月2日にMADOCA-PPP広域伝送情報カバーエリア更新が公表され、より広い領域で、MADOCA-PPPでの短時間高精度測位ができる見込みです。この新しい広域電離層情報のカバーエリア座標を求めてみます。

広域電離層情報カバーエリアの更新

みちびき公式ホームページにある案内(Coverage area of MADOCA-PPP ionospheric correction data)によると、QZS-7の広域電離層情報は日本とオーストラリア東部をカバーします。一方、QZS-6のそれは、フィリピン北部、インドネシアの一部、オーストラリア西部をカバーします。

MADOCA-PPP ionospheric correction

まだ、QZS-6やQZS-7は打ち上げられていないので、MADOCA-PPPインターネット配信にてこれらのメッセージを入手し、QZS L6 Tool v.0.1.4にて、その内容を観測します。

QZS-7にて放送予定の広域電離層情報

QZS-7のL6D信号からは、PRN(擬似ランダム雑音、pseudo random noise)番号201にて広域電離層情報が放送される予定です。Coverage area of MADOCA-PPP ionospheric correction dataにある図面の緑色の部分がこの広域電離層情報のカバーエリアです。Rは地域番号(region)を、Aはエリア番号(area)を表します。

MADOCA-PPP ionospheric correction that will be sent on PRN 201 (green hatching areas) MADOCA-PPP ionospheric correction that will be sent on PRN 201 (green hatching areas) and PRN 200 (red hatching areas)

これらの座標を、MADOCA-PPPアーカイブcurlコマンド、QZS L6 Toolのqzsl6read.pylvコマンドにて読み出します。一例として、2024年12月5日 00:00:00から01:00:00までのデータを取得して処理します。1月1日からの経過日数は340で、時刻コードはAです。

curl https://l6msg.go.gnss.go.jp/archives/2024/340/2024340A.201.l6 --output - | qzsl6read.py -t 1 -c | lv

このコマンドを実行すると、座標を定義するメッセージタイプ(MT)1について、以下のような出力が得られます。

MT1 Epoch=00:00:06+4 UI=30s(5) MMI=0 IODSSR=0 Region=5  9014bit  NumAreas=8
 # shape lat[deg] lon[deg] lats lons / radius[km]
 1 RECT      43.7    142.5  2.5  4.3
 2 RECT      39.2    140.5  2.0  3.0
 3 RECT      34.2    140.0  3.0  2.5
 4 RECT      35.2    135.0  3.3  2.5
 5 RECT      32.8    130.3  2.8  2.2
 6 RECT      27.5    129.0  2.5  3.0
 7 RECT      24.5    124.2  1.0  1.8
 8 CIRCLE    26.9    142.2  100
 ...
 MT1 Epoch=00:00:30+4 UI=30s(5) MMI=0 IODSSR=2 Region=2  9623bit  NumAreas=9
 # shape lat[deg] lon[deg] lats lons / radius[km]
 1 RECT     -15.5    132.5  5.5  6.5
 2 RECT     -15.5    144.5  5.5  5.5
 7 RECT     -26.0    132.5  5.0  6.5
11 RECT     -23.7    143.5  2.7  4.5
12 RECT     -23.7    151.0  2.7  3.0
13 RECT     -28.7    143.5  2.3  4.5
14 RECT     -28.7    151.0  2.3  3.0
15 RECT     -35.2    146.5  4.2  7.5
16 RECT     -41.7    146.5  2.3  3.0
...

地域番号2について、これまでは2エリアしかありませんでしたが、今回は9エリアが観測できました(エリア番号4がなくなりました)。これらデータをMicrosoft Excelに読み込み、緯度(lat: latitude)・経度(lon: longitude)からなる4点の矩形座標をまとめます(madoca-ionosphere-update.xlsx)。地域番号5、エリア番号8の小笠原諸島については、円形エリアになっているために、この表には取り上げません。

regionarealat1lon1lat2lon2lat3lon3lat4lon4
21-21.0126.0-21.0139.0-10.0139.0-10.0126.0
22-21.0139.0-21.0150.0-10.0150.0-10.0139.0
27-31.0126.0-31.0139.0-21.0139.0-21.0126.0
211-26.4139.0-26.4148.0-21.0148.0-21.0139.0
212-26.4148.0-26.4154.0-21.0154.0-21.0148.0
213-31.0139.0-31.0148.0-26.4148.0-26.4139.0
214-31.0148.0-31.0154.0-26.4154.0-26.4148.0
215-39.4139.0-39.4154.0-31.0154.0-31.0139.0
216-44.0143.5-44.0149.5-39.4149.5-39.4143.5
5141.2138.241.2146.846.2146.846.2138.2
5237.2137.537.2143.541.2143.541.2137.5
5331.2137.531.2142.537.2142.537.2137.5
5431.9132.531.9137.538.5137.538.5132.5
5530.0128.130.0132.535.6132.535.6128.1
5625.0126.025.0132.030.0132.030.0126.0
5723.5122.423.5126.025.5126.025.5122.4

QZS-6にて放送予定の広域電離層情報

QZS-6 L6D信号上にある広域電離層情報についても、同様に読み出します。PRN番号は200です。図面の赤色の部分がこの広域電離層情報のカバーエリアです。

MADOCA-PPP ionospheric correction that will be sent on PRN 200 (red hatching areas) MADOCA-PPP ionospheric correction that will be sent on PRN 200 (red hatching areas)

curl https://l6msg.go.gnss.go.jp/archives/2024/340/2024340A.201.l6 --output - | qzsl6read.py -t 1 -c | lv
...
MT1 Epoch=00:00:30+4 UI=30s(5) MMI=0 IODSSR=2 Region=1  3591bit  NumAreas=3
 # shape lat[deg] lon[deg] lats lons / radius[km]
 5 RECT     -34.0    132.5  3.0  6.5
 6 RECT     -31.5    119.5  4.0  6.5
 8 RECT     -20.5    119.5  7.0  6.5
 ...
 MT1 Epoch=00:00:33+4 UI=30s(5) MMI=0 IODSSR=2 Region=3  1404bit  NumAreas=2
 # shape lat[deg] lon[deg] lats lons / radius[km]
 1 RECT      17.4    121.4  1.3  1.1
 2 RECT      14.7    120.8  1.4  1.0
 ...
 MT1 Epoch=00:00:34+4 UI=30s(5) MMI=0 IODSSR=0 Region=4* 77bit  NumAreas=1
 # shape lat[deg] lon[deg] lats lons / radius[km]
 1 RECT      -6.8    107.0  0.9  1.2
 ...

地域番号1(オーストラリア西部)、地域番号3(フィリピン北部)、地域番号4(インドネシアの一部)のすべての広域電離層情報がありました。すごい。Excelシートの別シートにこれらをまとめます。

regionarealat1lon1lat2lon2lat3lon3lat4lon4
15-37.0126.0-37.0139.0-31.0139.0-31.0126.0
16-35.5113.0-35.5126.0-27.5126.0-27.5113.0
18-27.5113.0-27.5126.0-13.5126.0-13.5113.0
3116.1120.316.1122.518.7122.518.7120.3
3213.3119.813.3121.816.1121.816.1119.8
41-7.7105.8-7.7108.2-5.9108.2-5.9105.8

まとめ

MADOCA-PPP広域電離層情報のカバーエリアが更新されましたので、これらの座標値をまとめました。新しいみちびき衛星の打ち上げを楽しみにしています。