測位航法学会全国大会2025(東京海洋大学)

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はじめに

測位航法学会の会員限定イベントである全国大会に参加しました。会場は東京海洋大学の越中島(えっちゅうじま)キャンパスで、期間は2025年5月21日から23日までの3日間でした。初日と2日目には、パラレルセッション形式にて2つのセミナーが開催されました。3日目には、シングルセッション形式にて特別講演会と研究発表会が開催されました。

セミナー「GNSSの基礎と信号処理の概要」

私は、初日には、千葉工業大学の鈴木太郎先生のセミナーに参加しました。

内容は、GPS L1C/A信号受信をソフトウェア無線(SDR: software defined radio)で実現する方法に関するものです。中心周波数1575.42 MHzの信号波のキャリヤ・ワイプオフ、2次元高速フーリエ変換(FFT: fast Fourier transform)を応用したコード位相とドップラ周波数シフトの同時推定、ゼロパディング、信号積分、信号捕捉、信号追尾を教えていただきました。

セミナー自体は、座学形式でした。シミュレーションソフトウェアMATLAB(マトラボ)上のSIMULINK(シミュリンク)で動作するソースコードとサンプルデータが配布され、その場で信号処理を試すことができました。

鈴木先生は、衛星測位に関する多くのオープンソース・ソフトウェアをGitHub(ギットハブ)にて公開されています。Google開催のスマートフォンデシメータチャレンジ2023のgsdc2023、MATLABからRTKLIB(アールティケイ・リブ)を扱い測位結果を美しく表示できるMatRTKLIBなどがあります。準天頂衛星みちびきのL6信号受信機が市販されていなかった時代、SDRにてL6信号受信を可能にしたGNSS-SDRLIBも鈴木先生の作品です。

セミナー「GNSS SDRの設計、実装と応用 -Pocket SDRを例題にして-」

2日目は、東京海洋大学の高須知二先生のセミナーに参加しました。このときのセミナーのハンドアウトが、高須先生の日記・備考録に公開されています

測位衛星信号を多周波数にて同時に収録したデータがセミナー前に配布されました。ソフトウェア無線Pocket SDRをあらかじめノートパソコンにインストールしてセミナーに臨みました。

このセミナーでは、鈴木先生のセミナーの続きとして、GPSを含む測位衛星(GNSS: global navigation satellite system)の信号も扱いました。内容は、SDRにて多周波数を扱うための受信機部(フロントエンド)、ベースバンド信号プロセッサ、ナビゲーションプロセッサ、計算機実装における最適化、GNSS SDRの応用からなります。

私にとって難解であった、BPSK(10)などの括弧書き表現(実は、これがデータレート10.23 Mbit/sのBPSKを表すことを私は初めて知りました!)や、BOC(ボック、binary offset carrier)信号追尾での誤った引き込みを防ぐためのbump jumpをわかりやすく解説していただきました。聴講しながらPocket SDRのpocket_sdr.pyにてこのbump jumpを自ら試しました。

現在の測位衛星信号は大変複雑で、GPSやみちびきのTMBOC、GalileoのCBOCやAltBOCなど、多重伝送方式が用いられるようになりました。Galileo CBOC(6,1,1/11)を、ソフトウェア無線にとって現実的なBOC(1,1)にて受信しても、ほとんど損失のないことを知り、感動しました。

衛星から伝送される航法メッセージは、衛星システムごとに、また、同じ衛星システムでも信号ごとに異なるので、Pocket SDRやRTKLIBではこれらをすべて個別に実装されているとのことでした。私も一部の航法メッセージ復号に挑戦したことがありますので、その大変さがわかりました。

また、みちびきの高精度測位補強信号の伝送に用いられるCSK(code shift keying)をFFT相関器にて復号するテクニックや、さらに事実上のEPL(early, prompt, and late)相関出力を作り出して信号追尾する方法についても教えていただきました。

セミナー資料は公開されていますが、その高度な内容をこの世界のエキスパートに直接、教えていただける機会はとても貴重です。

特別講演会・研究発表会

3日目は内閣府の三上建治様の特別講演「準天頂衛星システムみちびき~日本の未来を支える衛星測位技術」がありました。講演会では、今年末から来年頭にかけて、打ち上げが予定されているみちびき5号機や7号機、その先のみちびき衛星について解説していただきました。

その後の研究発表会では、日本国土の座標、人工衛星での高精度測位、月での衛星測位、新しい電波測位方法、対妨害衛星測位、画像やレーザレーダ(LiDAR)を用いた測位など、最新の研究成果を聴講しました。私も「Galileo測位補強信号の日本とドイツでの同時刻観測」のタイトルで発表しました。

Presentation material for IPNTJ conference 2025

キャンパス散歩

東京海洋大学のキャンパス内には、船に関する様々な展示があります。これは駆逐艦「あけぼの」のシリンダです。

Akebono ship cylinder

また、かつての東京商船大学時代のマンホールカバーもあります。

Manhole cover

これは、重要文化財「明治丸」です。

Meiji maru ship

木曜日の昼休みに、この明治丸の内部を見学させていただきました。

Meiji maru ship